デート中、突然の土砂降りに遭い、アレックスの部屋へ避難した2人のお話。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
アレックスの部屋
A:はい、タオル。
P:サンキュー、ちょうどおまえんちが近くて助かったぜ。いきなりすげー降ってくるんだもんなー。例のレストラン、残念だけど次回におあずけだな、雷もすげーし、これしばらく続くだろ…。靴ん中までぐちゃぐちゃできもちわりー。天気予報ぜんぜん見てねーから知らなかった…。なあ、おまえ知ってた?
A:えっ?…ごめん、聞いてなくて。何?
P:だーかーらー、天気予報!今日雨降るなんて知ってたか?つかおまえ、オレと話してるときあんま話聞いてねえだろ。オレの話つまんねえ?
A:違う、ごめん、違うんだ。そんなことないよ。天気予報は、僕も見てなかった。
P:そっか…。ま、外れることもあるしな…天気予報なんて。
A:…そうだね……。
P:……あのさ、
A:あのっ、
P:え、何?
A:いや…っ、君からどうぞ。
P:……悪いんだけどシャワー貸してくんね?しばらく降りそうだし、さっきから寒くてさ。
A:あっ、ああ!そうだよね、シャワー!ごめん、気づかなくて!
P:いいよ別に。いちいち謝りすぎ。
A:ごめん…あっ。
P:ははっ、じゃあ先に使えよ。
A:いや、いいよ。君が先に使ってくれ。
P:いいのか?じゃ、借りるわ。このドア?
A:そう。脱いだ服は、中にバスケットがあるからそこに入れておいて。洗って乾燥させる。それから、僕の服…君には大きいかもしれないけど用意しておくから、それを代わりに着てくれる?
P:おお、助かる。おまえもシャワー浴びたほうがいいぞ。
A:ありがとう。でも僕のことはいいんだ、気にしないで。君がシャワー浴びてる間にざっと体を拭いて着替えるよ。
P:そんなので寒くねーの?
A:ちっとも。服を用意して待ってるね。
P:ありがとな。あ、下着はいらないぜ、ちなみに。
A:はは、そうだよね。
A:(――なんだよこれ!?どうしよう、どうしたらいいんだ?濡れたシャツが彼の体に張りついてるのに夢中になっちゃってて、ほとんどぼーっとしてたけど、これって夢じゃないよな?
大好きなあのフィリップが僕の部屋にいる…だけじゃなく、壁1枚向こうで裸になってシャワーを浴びてる……。いや、これは”そういう意味”じゃないって分かってるけど、でもこんなのって…。今まで女の子たちとデートしてるときはどうしてたっけ…?だめだ、もう混乱しすぎて頭が…)
P:おーい、アレックスー!タオルってどれ使ったらいいんだー?
A:えぇっ!? …ああ、えっと…、棚にある茶色いのが全部バスタオルだから、どれでも好きなの使っていいよ!
P:ああ、この茶色いやつな!サンキュー!
A:(……心臓止まるかと思った……。15歳の夏に初めて女の子とセックスしたときよりも緊張してるかも…。落ちつけアレハンドロ…、大丈夫、彼はただ体が濡れたからシャワーを浴びてるだけだ。
…僕らはまだキスすらしてない。ハグは何度かしたけど…。
いきなり一方的に迫るようなことはしちゃダメだ。ぜったい彼を傷つけて、嫌われてしまう。せっかくこうして会ってくれるようになったんだ。それも、今日を含めて5回も。今はそれで十分じゃないか。
それより服だよ、服。ああ…フィリップが僕の服を着てくれるなんて…。もう嘘だろ…、信じられない。幸せすぎる……。どれを着てもらおうかな…)
バスルーム
P:(そういえば、人んちのシャワー借りるの初めてだ…。このアパート自体、1部屋にキッチンもベッドもソファも全部詰まっててオレんちのバスルームより小さいけど、なんかこういうのもいいかも…。
それに、すげーあいつの部屋って感じがする。家具も小物も、あいつらしい”匂い”がするっていうのかな…、不思議と落ち着く。
それにしても、さっきのあいつ変だったな。いつもはもっとニコニコしてんのに、妙に暗いっつーか。ほんとは他人を部屋に上げるの嫌だったとか…?しかも先にシャワー借りちゃってるよオレ。マジで悪いことしたかも…)
アレックスの部屋 ~30分後~
P:ああー、さっぱりした!ありがとな。
A:(フィリップの裸…!シャワー浴びたんだし、当たり前か…。すごいな、色素が薄いとは思ってたけど、透き通ってるみたいですごく綺麗だ……肩にもそばかすが散ってて可愛い…)
P:おい、アレックス?
A:じゃ、じゃあ、これに着替えて。合うといいんだけど。それから、何か温かい飲み物を用意するね。何が飲みたい?用意できるのは紅茶、コーヒー、ココア、ホットミルク…そんなところかな。
P:じゃあコーヒー。
A:OK。
P:うわっ、おまえの服ぶかぶか。オレも筋肉つけようかな…昔からこんなで、ちっとも肉つかないんだよなー。おまえみたいに強そうな体うらやましい。
A:君はそのままでいいよ。完璧だ。
P:そうかー?え、なにそれ、インスタントじゃなくてちゃんと豆挽いてんの?すげーじゃん。
A:この豆は、よく行くカフェで買ったんだよ。それをコーヒーメーカーで淹れてるだけ。
P:へぇ~…なあ、そのカフェ今度行こうぜ。店でも飲んでみたい。
A:…!うん、いいね、行こう!そこの店は朝食のメニューが豊富で美味しいんだ。ここからさほど遠くないし、仕事前に行く機会があったらおすすめだよ。店のアドレス送ろうか?
P:いいよ、おまえと行くまでの楽しみにとっておく。
A:…フィリップ……。
P:そうだ、おまえさっきすげー暗い顔してたけどさ、もしかして部屋に人来んの苦手なタイプだったりする?だったら悪ぃことしたなーってシャワー浴びながら思ってたんだ。オレはガキの頃からルームメイトがいたから、あんま気にならなかったけど。
A:そ、そんなことない!君がここにいてくれて、すっごく幸せなんだ。本当だよ、ずっといてほしいくらい。
P:ずっと……。
A:なんてね…そんなの無理に決まってる…、何言ってるんだろ僕…。
P:………。あのさ、ひとつ聞いていいか?
A:なんでも。
P:その…、初めて会った時、なんでオレに番号渡してきたんだ?
A:それは……(素直な気持ちを伝えるんだ、アレハンドロ。今しかない…!)……君を一目見て、好きになったから。どうしても近づきたかった。
P:…!
A:あのヴァレリー・ベルエアの息子が同じ事務所に所属してるっていうのは聞いてたし、名前も知ってた。でも顔を知らなかったから、撮影で一緒になると聞いたとき「実物はどんなやつだろう」ってひそかに楽しみにしてたんだ。
P:…オレの第一印象最悪だったろ。
A:ううん、すごく可愛かったよ。
P:かっ…、…おまえ、ほんと変わってんな…。
A:だから、今日みたいにデートできるなんて奇跡だ。もう自分でもわけが分からないくらい舞い上がってる。
P:デート…。
A:あのっ、デートって言っても、僕がそう思ってるだけで、君にはただ友達と出かけるのと同じだよね。…それでもいい。もし君がそんなふうに思われるのが嫌なら、無理に付き合ってくれなくていいから。ただ、わがままだけど、せめて友達でいさせてほしい。
P:…嫌だったら、カフェに行こうなんて誘ったりしねえよ。
A:…フィリップ…それって…、
P:ぶっちゃけ、おまえからもらうメッセージで「たぶんオレと友達以上の関係になりたいんだろうな」とは思ってた。オレのどこがそんなに好きなのかは分かんねえけど。
A:たくさんあるよ。1分1秒ごとに新しい君を知るたび、好きなところがどんどん増えてる。
P:なっ…!
A:君を見た瞬間は、雷に打たれたように電撃が走った。僕には君しかいない、たった1人の人だってすぐ分かったんだ。今までたくさんの女の子と出会ったけど、1度だってこんなことは無かった。…君は?フィリップ…僕のことをどう思ってるの?
P:……オレは…、オレも……、おまえのことが、好きなんだと…思う…。
A:!
P:最初は「なんなんだこいつ、からかってんのか?」って、うざったく思ってた。だけど、メッセージもらうたびに頭ん中がいっぱいになって、ずっとおまえのことばっか考えちまってて…。だってオレ…男を好きになったりなんて…、そもそも意識したこともなかったし。で、思いきって昔のルームメイトに相談したんだ。そしたら、「それはもう恋だろ」って言われて…。それから、急におまえのこと意識し始めて止まんなくなったっつーか…
A:フィリップ。
P:え?
A:キスしていい?今すぐ君にキスしたい。それがだめなら、せめて抱きしめたい。君に触れたいんだ。
P:!?
A:もちろん、君が嫌だったらしない。いや…本当の気持ちを言ったら、すごく、ものすごくしたいよ。何度だってしたい。でも君が嫌がるようなことは絶対にしないって、心の底から神に誓う。本当に嫌ならはっきりと断ってくれ。君が僕のことを想ってくれてると知れただけで、ただそれだけで幸せだから。男とこんなことするなんてお互い初めてだろ?僕は平気だけど、君は嫌悪感があるかもしれないし…――
A:フィル…ッ、
P:や、まて、だめだ待てってアル、…やだ…ッ、
A:…ッ!ごめん、フィリップ!僕…つい興奮して…、
P:(なんでおまえが泣きそうな顔してんだよ…)……アレハンドロ・シルバラード、さっき神様に誓ってたことを復唱してみろ。
A:うっ……。
P:冗談だって。ちょっとびっくりしただけ。おまえには悪いけど…、オレはもっと慎重に、時間が欲しい。
A:そうだよね、当然だフィリップ…。許してくれ、本当にすまない。
P:んな謝ることねーじゃん。オレからキスしたんだから。
A:でも、急かしすぎたのは僕だ。急に嫌だっただろ、あんなこと。
P:………あのさ、おまえだから言うけど……笑うなよ?
A:?
P:オレ……、女の子とセックスしたことないんだ。
A:…デートしたことも?
P:それは、何度か…。でもそこまでの雰囲気にならなくて。だからその、さっきはテンパったっていうか、…笑えるよな、もう20歳だってのに。
A:笑わないよ。僕がひどいことをしたんだから。勇気を出して言ってくれて嬉しい。
P:ほんとか?
A:うん。君をもっと好きになっただけ。
P:…なんだよ、それ…。
A:大好きだよ、フィリップ。今までの僕の恋愛は、急に始まって急に終わることが多かった。だけど、君とは違うものにしたい。これからゆっくりお互いを知っていこう。
P:……それでいいのか?
A:君さえ良ければ。僕だってまだ20歳だし、世間のことなんて何も知らないガキだ。それに、君には信じてもらえないだろうけど、きっと君が最後の相手になるだろうなって思ってる。
P:アレックス……。
A:君もそうだといいな。
P:…さあね。
A:きっとそうなるって信じてる。
P:ちょっと待てよ…、じゃあそうなったらオレ、一生童貞か?
A:……そっか…そうなるね。
P:そうなるね、じゃねーよ!ふざけんな!
A:僕で卒業しちゃえば?他の女の子に譲る気も無いし。もちろん、男にも。
P:ハァアッ!?
A:わりと本気でさ。僕は君ならいける。
P:それは、ちょっと……心の準備が…できてなさすぎっていうか…。
A:キスだけでいっぱいいっぱいだったしね。
P:てめー笑ってるだろ。
A:笑ってないよ。
P:心の中で笑ってんのが聞こえんだよ!
A:じゃあ、今何て言ってるのか聞こえる?
P:は?
A:『愛してる』って言ったんだ。3回。
P:このッ…、ふざけんのもたいがいにしろ!
A:本気だって。愛してる。聞こえたんだろ?
P:聞いてねえ!雷がうるさくて聞こえなかったんだよ!
A:フィリップの嘘つき~。
P:るっせえな、コーヒー冷めるから飲むぞ!
A:あはは、そうだね。次はプロに淹れてもらおっか。
END
(200515)