※このお話は、会話集『Call me maybe』の本文の一部と統合し、新たに『Call me anytime』として漫画化しました。
親友のシャマルに悩みを打ち明けるアレックスのお話。
登場人物
A:アレックス
S:シャマル
撮影スタジオ 休憩室
S:よお、いつになく暗い顔してんな、アレックス。借金か?俺、金なら無いぜ。それとも恋愛系?
A:どうして分かったんだ、シャマル。
S:マジで?ははっ、冗談だろ。あのおまえがか?
A:『あの』って何だよ。
S:俺が狙ってた子を3人も立て続けに食い散らかした、あのアレハンドロ・シルバラード様だよ。よぉーく知ってんだろ。
A:あれは悪かったって…。僕は知らなかったんだ。
S:まあ過ぎたことごちゃごちゃ言っても仕方ねえわ。で、おまえがどう恋愛で困ってんのか聞かせろよ、笑ってやるから。
A:実は今…デートしてる相手がいて…。近いうちに、一緒に暮らしたいと思ってるんだ。
S:…思った以上にシリアスそうだな。
A:そうだよ、本気なんだ。
S:(こいつが一人をそこまで好きになるって初めてじゃねーのか?)セックスの相性がよっぽど良いんだろ。
A:下品だな。…まだ寝てない。
S:ハ?
A:………。
S:もしかして…、15世紀からやって来たお姫様だったりすんの?
A:バージンなのは確認した。
S:なんだ、そこまでいってたら後はいつも通りにやれば楽勝だろ。
A:それがそうもいかないんだ。僕も相手も、なにもかも初めてすぎてさ。
S:あのなあ、アル……言っとくが、ガキとデートすんのは犯罪だって知ってるよな?
A:いや、同い年だから大丈夫。
S:まさか俺の知ってる子か?同じ事務所だったりする?
A:その通り。
S:ウソつけ!あそこのモデルでバージンなんて残ってねえだろ。
A:女じゃない。
S:…えっ?
A:フィリップ・ベルエア。
S:フィッ………ハァアッ!!?
A:そう、あの彼だ。僕らと同じ事務所の。
S:………俺、おまえに何かしたっけ?タチの悪いジョークで嫌がらせすんならもう帰るぞ。
A:事実だよ。
S:………マジかよ……。(周りの女どもは、誰があいつを最初に落とせるか競ってるってのに…。なんつっても、あのヴァレリー・ベルエアのひとり息子だぞ)
A:君には打ち明けようと思ってたんだ。僕の知ってる中で、君ほど親しくて良いやつはいないから。
S:お、おう…。ありがとな…。そういやおまえら、2人で撮ってた企画あったよな。あれがきっかけか?
A:ゲイのカップルに扮したやつね。そう、あのとき一目惚れしたんだ。それまで男を好きになったことは一度も無かったのに…、不思議だよな。話は戻るけど、彼とは5回デートしたのに、まだキスしかしてなくてさ。
S:いやいやいや、それ以上は打ち明けてくれなくてもいいぞ?
A:携帯からも、毎日「愛してる」ってメッセージ送ってるんだけど…いまいち手応え無くて。
S:え…重っ……。
A:でも会って直接伝えると、耳が透けるほど真っ赤になって黙りこむんだよ。そのギャップが、もうたまらなく可愛いんだ。
S:いや……、別に可愛くはないし知りたくはなかったかな…。
A:君は、彼を見てないからそう思うんだよ。
S:つーか意外だわ。遠目に見たことはあったけど、あいつ常にツーンとしてて、俺らになんか全然キョーミねーしって顔してたからな…。実際、何もしなくてもママの金で一生食っていけるだろうしよ。なんで働いてんのかも疑問だぜ。
A:彼のお姉さん2人も、僕らと同じ事務所でモデルとインフルエンサーやってるだろ?
S:ああ、2人ともすっっげー美人。おっさんみてーなクシャミする俺の姉ちゃんと取り替えてほしいわ。
A:そのお姉さんたちの影響と、事務所の話題作りもあって、らしい。
S:へー…、まあたしかに画になる一家だしな。
A:それに、彼はツーンとなんてしてない。僕と一緒のときはずっと楽しそうにしゃべってるよ。それを見つめているだけで幸せな気持ちになるんだ。だからいつも、話の内容は半分くらいしか覚えてない…、彼には悪いけど。
S:いや~、俺の21年の人生で1番驚きの事件かも。ま、でもおまえら2人がいいってんならいいんじゃねーの?…ただ、ひとつ問題がある。
A:どんな?
S:あのヴァレリー・ベルエアを!どう攻略すんのかだよ!会ったことはあんのか?
A:あるよ。
S:え、なに、あんの!?すげーじゃん、生ヴァレリーどうだった!?
A:どうって…、「かわいい」って言われた。すごく魅力的な人で、『レクシー』ってあだ名を付けてくれたよ。
S:レクシー!?にしても、おまえのどのへんが可愛いのか分からねーけど…。で、フィリップとのことは言ったのかよ。
A:ああ、隠しても仕方ないからね。彼のことを愛してると伝えた。
S:おまっ…マジで…?…すげーな…あのヴァレリーに……尊敬するわ。それで?
A:「息子がもう1人欲しかったのよ!」ってハグされたんだ。あの日は、家でシャワーを浴びるまで、ずっと彼女の香水の香りがつきとまってたよ。
S:なんだよそれ~~~もう公認じゃねーか!映画だってそう上手くはいかねーぞ!
A:フィリップは僕の足を蹴ってたけどね。
S:そこまで進んでんなら、もう何も問題ねえじゃねーか。あいつだっておまえのこと好きなんだろ?
A:…だと思う。
S:で、結局、おまえは最終的にどうしたいんだ?俺は野郎同士のアレコレってまったくわかんねーけど、セックスしてえのか?あとは…、結婚とか?
A:結婚か…。そこまでは考えてなかったけど…できればしたい。もちろん、セックスも…。でも彼に無理強いはしたくないし…。
S:まどろっこしいな~~。女の子に誘われたら即お持ち帰りしてたような男が、何うじうじしてんだよ。素直に「やらせてくれ」って言やあいいだろ。あいつがおまえのことを好きなら、それでめでたしめでたし、じゃねーか。
A:いや、そういうのは嫌なんだ、シャマル。彼のことは大事にしたいから、もっと慎重にいきたい。
S:(…こりゃ重症だわ)しかし、おまえが1人の相手にそんなに夢中になるなんてな。
A:今こうして離れてるのもつらいよ…。早くフィリップに会いたい。
S:わかったわかった、俺はこのあと1本撮影入ってるから、今日はそこまでにしてくれ。まだあいつと話したことねえから、よくは知らねえけど、今度紹介しろよな。
A:ああ、もちろん。きっと彼も喜ぶよ。君とのほうが話も合うかも。僕はインドア派だけど、彼はアウトドア派だから。
S:そっか、じゃあ楽しみにしてるわ。3人でメシでも食おうぜ。
A:ああ、楽しみだね。聞いてくれてありがとう、シャマル。君こそ、あの子連れてきたら?なんだっけ…彼女の名前…。
S:ケンジーな。先月別れたよ、つーかこっちから振った。あのビッチ、俺の他に男が何人もいやがって…。…いいや、それはまたあとで話す。
A:なんだよ、そっちのが聞きたい。
S:おもしろがってんじゃねえよ。
A:もっといい子がいくらでも見つかるさ、君なら。
S:フィリップみたいな?
A:いくら君でも、彼は渡さない。
S:誰も欲しくねーよ、あいつのことなんか!あ、でもお姉様たちとは仲良くなりてえかも♡
A:君らしいね。
S:お、もうこんな時間か。じゃ、俺もう行くわ。
A:がんばって。(問題はまだある。僕の家族だ…。母さんはともかく、父さんや兄さんがどんな顔するかな…。僕はどっちでもいいけど、フィリップに嫌な思いはさせたくない)
END
(200515)