フィリップとアレックスが3回目のデートをするお話。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
街角
P:(やべー、もう11時過ぎてるよ!待ち合わせ10時半なのに、だいぶ遅れちまった。こんなときに渋滞ハマるなんてツイてねー…。遅れるってメッセージ入れたけど、あいつ待たせちまってるよな…。なにせ2時間前から来るやつだし…。
にしても、待ち合わせに珍しい場所指定してきたな。ブランドショップの前、なんて…)
P:(いた…!良かった…!)……ん?(アレックスのやつ……ウィンドウのほう向いて、何を真剣に見てんだ?……あ、あれは…!!)
A:フィリップ…!おはよう!
P:おはよ…。待たせてごめんな。LOAD(=配車サービス)の車が、渋滞にハマっちまってさ。
A:気にしないで。君が無事ならそれでいいんだ。…あっ、そのスニーカー!この前いっしょに買ったやつだね。
P:ん?ああ…。
A:試着したときの服にも合ってたけど、今日の服のほうがとても似合ってるよ。そのライムグリーンのラインがアクセントになってて。
P:…サンキュー。んなことより、まさかとは思うけど…、おまえさぁ…オレの写真が飾ってあるって分かってて、わざわざこの店を待ち合わせに選んだのか!?
A:うん。このあいだ通った時に気づいたんだ。まだ写真が外されてなくて良かったよ。もし僕が先に着いても、君と一緒にいるみたいで楽しいし、僕が遅れたら、君が2人待っててくれてるみたいで嬉しいだろ?
P:だろ?…じゃねーよ!全っ然楽しくねーし!なんで自分のどでかい写真を待ち合わせ場所にしなきゃなんねーんだ!
A:この写真、とても良く撮れてるよね。この時のフォトグラファー誰だった?僕の知ってる人かな?モノクロだけど、君の瞳の色まで鮮やかに浮かんでくる気すらするよ。…って、実物を僕が知ってるからか。
P:人の話を聞け、モップ頭。
A:…モップ頭?…僕、そんなふうに呼ばれたの初めてだ。
P:いや、その、悪意は無くて…。
A:すっごく嬉しいよ、フィリップ!!君が僕にあだ名をつけてくれるなんて…!
P:へ?
A:僕の髪、たしかにもさもさしててモップみたいだもんね。君ってあだ名をつける天才だ。
P:……気に入ったならいいけどさ(こいつ、ほんと変わってんな…)。
A:ところでフィリップ、君は朝食食べてきた?
P:いや…起きたの9時半くらいだったから抜いてきた。
A:じゃあコーヒーでも飲んで、軽く何か食べない?近くに良いお店があるんだ。
P:おお、いいぜ。別にこれといってやること決めてるわけでもねーし、おまえの好きなとこでいいよ。
A:…!ありがとう、じゃあ行こっか。
カフェ 店内
P:おおー、ここ初めて来たけど雰囲気良いな。隣が本屋で、中が繋がってんのな。おもしれー。
A:そう、ブックカフェなんだ。隣の本屋で買った本は、こっちのカフェに持ち込んでもOKなんだよ。だから、買った本を読みながら食事も取れる。
P:へぇ~便利だな。(オレなんてすぐコーヒー飛ばして本汚しそう…)
A:ここは、特にカルチャー系が充実してるからよく来るんだ。気になる作家の新作小説や写真集を買いにね。
P:おまえ小説読んでんの?すげーな…。オレなんか3分くらいで眠くなるぞ。
A:じゃあ、寝つけない夜は小説を読むのが良さそうだね。
P:それいいな。でも、寝つきはけっこー良いんだぜ。たいていどんな場所でもすぐ寝られんの。特技。
A:ほんとに?すごいな。僕はうるさい場所だとちょっとダメかも。
P:あー…音なー…。たしかに、それはオレもムリかも。
A:じゃあ同じだね。
P:同じ?
A:そう。僕らの共通点。1個見つかって嬉しい。
P:…そんなことくらいで喜ぶなよ。
A:他にも色々教えて。休みの日はどう過ごしてるのか、とか。君のことなら何でも知りたい。
P:何でもって…。ゲームしたり、こうやって外に出てぶらぶらしてるくらいだぞ。
A:ゲーム好きなんだね。
P:ああ。オンラインで知らないやつと対戦したり…、もちろん1人でもやるけどな。
A:へぇ…。僕には未知の世界だなぁ。
P:ハマると楽しいぜ。時間忘れて朝までぶっとおしでやっちまうこともあるし。
A:そんなに!?体には気をつけてね、フィリップ…。あ、カウンター空いたみたいだ。君はどれにする?
P:オレは…そうだな…、アメリカーノとサンドイッチにするわ。トッピングはハムとトマトとチーズで。
A:じゃあ僕は…、カフェラテと、ピーナッツバターとバナナのベーグルにしようかな。
P:お、このサンドイッチ美味い。
A:ここのパンは、全部店内で焼いてるんだって。
P:そうなのか!じゃあ焼きたてが食えるんだな。ちょっと腹空いてたし、量もちょうどいいや。
A:良かった。フィリップ、君はどんな食べ物が好きなの?
P:んー…、すげー辛党ってわけじゃねえけど、基本的には辛いのが好きだな。エスニック料理とか、ああいうやつ。あとはピザにバーガーだろ…。ダイナーのメニューにあるようなもん、ぜーんぶ好き。
A:(かわいいなあ…。だからアラビアータやペペロンチーノが好きなのか)じゃあ…もしも明日、隕石が衝突して地球が粉々になるなら、最後に何を食べる?
P:そんなもん…ペパロニピザ一択だろ。腹いっぱい食って死ぬ。おまえは?
A:僕は君と反対で、どちらかというと甘いものが好きかなぁ…。もちろん、辛いものも食べるけどね。メキシコ系の家庭だから、母さんの作る料理にチリは欠かせなかったし。でも、同時に甘いものもたくさん出されてて、甘いもののほうが好きになったんだ。
P:デザートまで手作りか~!おまえのママって料理得意なんだな。
A:うん、とっても。料理は彼女にとって人生そのもので、愛なんだ。友人と一緒に、メキシコ料理の教室を開いてインストラクターをしてるくらいだから。
P:マジかよー!プロじゃん!じゃあ美味いに決まってるな。うちのママは、オレがガキの頃から撮影であっちこっち行ってて忙しかったし、手料理作ってもらった記憶は無ぇや。パパなんてオレが5歳のとき死んじまったから、料理もなにも…一緒に何かした記憶自体があんまり無ぇしな。
A:お父さんは映画の脚本家だったよね?
P:そう。よく知ってんじゃん。
A:う、うん。有名なご夫婦だから。(実はよく知らなかったけど、君のことが色々知りたくて検索したんだ…)
P:まあなー。パパやママが忙しかったおかげでこうしていられるし、料理作ってもらえなくても感謝しかねえわ。
A:君が生まれる前から第一線で活躍してる俳優だから、家にいられなくても仕方ないよね…。そういえば、君ってお姉さんもいるんだよね?僕らと同じ事務所の。
P:おお、ベレニスとロクサーヌな。実は、姉ちゃんたちもオレと同じで寄宿学校に入ってたから、ガキの頃はあんまり会ったことなくてさ。よく話すようになったのは、モデルをやり始めてからのここ2、3年くらいなんだ。
A:じゃあ、いつか僕と彼女たちが一緒に撮ることもあるかもしれないね。
P:おい、もしそうなっても、オレと知り合いだなんて言うなよ?うちの姉ちゃんたちときたら、なんでもすぐ聞きたがるんだから。
A:そうなの?(”知り合い”…か…。そうだよな…。でも、いつか彼女たちとも会ってみたいな…。どんなお姉さんなんだろう。フィリップのことも沢山聞きたい…)
P:ところで、おまえはどうなんだよ、アレックス。
A:父さんは個人事務所を開いて弁護士をしてるよ。兄弟は兄さんが1人いて、今はロー・スクールに通ってる。
P:弁護士にロー・スクール!?おまえは、そっちの道に興味無かったのか?弁護士に、検事に…判事?なんか色々あんだろ。
A:それが…僕も弁護士を目指してたんだけど、本気でなりたいかと言ったら、それも違う気がしてて…。そんなとき、友達がSNSに載せた僕の写真を見たスカウトから声を掛けられて、吹っ切れたんだ。
P:へぇー…(まあ、こいつならスカウトの目にも止まるよな…)
A:色々大変なこともあったけど、今はこの仕事を気に入ってるよ。なにしろ、君と出会えたんだから。それだけでも、選んで良かったと心から思う。
P:そ、そっか…。オレもおまえといるの楽しいよ。おまえみたいなやつ、今まで周りにいなかったから新鮮っつーか…。
A:ほんとにッ!?
P:ば、ばかっ、いきなりデケー声出すな!みんなこっち見てんだろーが!
A:ごめん…、嬉しくてつい…。
P:落ち着いてコーヒーでも飲めよ…、ったく…。
A:でも…本当なんだ、フィリップ。
P:わかったから、落ち着け。
A:君と出会って、僕は変わった。
P:…は?
A:…とにかく、毎日が楽しいんだ。輝いてるっていうのかな…。
P:(…オレ関係あんのか?つーか、それってまるで……)
A:それから……(…何をしていても、見ても、聴いても、君のことばかり思い浮かべてしまう。せめて声だけでも聞きたくて、何度も電話をしようとしてはやめたっけ…。そして…今やっと、こうして向かい合えているのに、なぜか全く満たされない。…君に触れたい…。でも、そしたらきっと、その先がもっと欲しくなってしまう――)
P:アレックス…?それから…何だよ。
A:あ、…えっと、撮影中にね、君のことを思い出すことがあるんだ。覚えてる?僕らが初めて会ったときのこと。
P:ああ。
A:あの時、「君と友達になりたい」って言ったろ?
P:言ったな。…オレは拒否ったけど。
A:そう。僕のことなんかまるで眼中にないって感じで。
P:…あれはオレが悪かった。謝るよ。ひでー態度だったよな。
A:いいんだ。僕こそ、あの時はごめんね。初対面の男からいきなりあんなこと言われたら、警戒して当然だよ。だからこそ、今こうして一緒にいられるのがとても嬉しい。
P:…なんでそんなにオレと友達になりたかったんだよ。
A:……君を見た瞬間…、なぜか分からないけど、友達になりたいって思ったから、としか……(嘘だ。嘘なんだ、フィリップ。そんなこと微塵も思ってない。でも、この想いをどうやって伝えたらいいのかも、今は分からない…)
P:ふーん…。そういえば、あの企画が載る雑誌、今月発売だったよな。
A:うん!隣の本屋にあるか見てみようよ。
P:アルー!こっちこっち!あったぞ、これだろ。
A:ほんとだ!表紙はさすがに、僕らじゃないね…。
P:そりゃそうだろ。お、このページだな…(なんつーか、現場で撮るたびに何度も確認したけど…あらためて見るとなんかすげー恥ずかしーな……)
A:わぁ…、現場で確認した写真と違って、編集されてるから新鮮だね。
P:おい、このページ…、これってアレだろ。フォトグラファーのパンツのジッパーが開いててさ、おまえがオレに耳打ちして教えてきたときの写真!
A:そうだ…!君には言ったけど、朝から開いてたのに伝えるタイミング逃しちゃったんだよね。
P:あん時、マジでつらかったんだからな。おまえのせいで吹き出すのこらえて撮ったから、けっこー腹震えてたし。
A:ごめん、ごめん。でも、どうしても誰かに言いたくてさ。
P:結局、あの後はオレらもソロの撮影に取り掛かったから、どうなったのか知らねえけど。
A:さすがにつらくなって教えたら、真っ赤になってすぐ上げてたよ。
P:なんだよ、おまえ教えたの!?
A:だって、周りのスタッフにセクハラだと思われてもかわいそうじゃないか。
P:ま、それもそうだなー。
A:でも、彼のジッパーのおかげで、こんなに素敵な君の笑顔が撮れたんだから良かったね。
P:ハハッ!そんなバカげた話、オレらしか知らないけどな!
A:…!うん…僕らだけの秘密だね。
P:ああ。なあアレックス、これ買ってこーぜ。
A:もちろんだよ!(実はネットで何冊も予約注文してあるんだけど…)
END
(200831)