フィリップとアレックスが初めて一緒に出かけるお話。(漫画版『First date』は一部台詞の改変あり)
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
街角のレストラン 店の前
A:(まだ待ち合わせまで2時間あるけど…、来てしまった。フィリップは…、来てるわけないよな。
――1分が永遠に感じる。1秒でも早く、彼にまた会いたい。あの撮影以来、もう1ヶ月も会っていないなんて…。
何度も誘って断られたから、やっとOKの返事をくれたとき、最初は信じられなかった。あれからもう、何十回と彼からのメッセージを読み返したっけ。……本当に来てくれるのかな…)
路上
P:(ザックが遅れて行けって言ってたから、少し遅れるくらいで家出たけど、やっぱ悪い気がしてきたな。あいつのことだし、だいぶ前から待ってそうな気がする。メッセージで何回か誘われるたび断ってたら、すげーへこんでるのが文章からも伝わってきてたしな…。
にしても、オレなんでこんな緊張してんだろ。女の子とデートしたときより心臓バクバクしてるぞ。相手は、ただの同業者の男だってのに。いつもダチと遊びに行くのと変わりねーじゃん。
いや、考えたら、ほとんど話したことねえやつだし、誰だって緊張するよな?撮影のときだって、お互いのこと知るほどしゃべってねーし…。
――あの撮影から、もう1ヶ月も経ったんだな。なんか、あっという間だった…)
街角のレストラン 店の前
A:フィリップ…!!おはよう!!本当に来てくれたんだね。とっても嬉しいよ!
P:おはよ、アル。って、いいかげん手ェ離せよ!あと声がでけぇ。
A:ああっ、ごめん!つい…。(フィリップが『アル』って!!あだ名で呼んでくれた…!撮影のときは最終日に1度アレックスと呼ばれただけだから、ちょっと親しくなったみたいで嬉しい…どうしよう…嬉しすぎるよ)
P:約束したんだから、そりゃ来るだろ。
A:でも…、もし来てくれなかったらと思って…。
P:あ…、そっか。もう待ち合わせの時間過ぎてたよな。待たせて悪かった。(ザックの言う通り、わざとそうしたんだけどさ…)
A:ううん、ちっとも。君が来てくれただけで嬉しいから、謝らないでくれ。
P:けっこー早く着いてたのか?
A:2時間前にね。
P:にっ、2時間ッ!?
A:昨夜からそわそわしちゃって、寝られなくて…。今日もなんだか家にいられなくて、早く来ちゃったんだ。
P:…すげぇな…。(どんだけ楽しみにしてんだよ……)
A:じゃあ、行こうか。そろそろお昼だし、お腹空かない?
P:ああ。
A:実は、このレストランに席を取ってあるんだ。
P:おまっ、いちいち予約したの!?
A:この前のメッセージで、イタリアンは好きか聞いたら好きだって言ってくれたから。ここは評判のレストランだし、以前寄ったらとても美味しくてさ。君の口に合わなかったらごめんね。
P:いや…、オレ別にそんな好き嫌い無いから大丈夫だと思うけど…。
A:そう?良かった。
P:…あのさ、気持ちはありがてーけど、次は予約とかしなくていいから。テキトーに入って軽くメシ食えるとこでいいって。男同士だし、バーガーとかでいいよ。
A:(次!?)次って…、フィリップ…また僕と会ってくれるの…?
P:えッ!?あっ、あぁ~~…、まあ…アレだ。なんつーの?ヒマなときに遊んでもいいけど…って意味。
A:……嬉しい…、ありがとうフィリップ…。じゃあ、次は君の好きな店に行こうね。
P:…おう。
A:(ああ…馬鹿だ…。ちゃんと彼の意志を聞けば良かった…当然のことなのに。僕はなんて大馬鹿なんだ。彼と会えるのが嬉しくて浮かれすぎた)
P:(赤くなったり青ざめたり、忙しいやつだな…)
レストラン 店内
P:はー、美味かった!
A:本当に、どれも美味しかったね。
P:ああ。
A:あ、会計はもちろん僕に払わせて。
P:ちょっ、だからさー、そういうのいいんだって…。オレは食ったぶんくらいちゃんと払うっつの。
A:でも……。
P:おい、聞いてるか?払うっつってんの。どーしてもおまえが払おうとするんなら、2度と一緒にメシ食わねえぞ。
A:!!…うぅっ…。(そんなのぜったいヤダ…!!)でも、僕のわがままで誘ったのに…。
P:ごちゃごちゃうっせー。ハイ、決まりな。
A:うん……。
路上
P:で?次はどこ行く?
A:前に僕がメッセージで送った店のこと覚えてる?
P:あ?ああ…、オレに似合うシャツがあるとかなんとか言ってたやつか?
A:そう、それ!そこに君を連れていきたいんだ。ここからそんなに遠くないし、一緒に行ってくれる?
P:ああ、いいぜ。
A:ありがとう!
3時間後
P:お、もうこんな時間か。オレ、そろそろ帰んねえと。今日はママ帰ってくるから、ディナー一緒にしようって言われてんだ。
A:そ、そっか…。(もっと一緒にいたかった…残念だな…)
P:(うわ…すげーしょんぼりしてる…)…荷物、持つよ。ずっと持っててくれてありがとな。
A:いいんだ、このくらい。…今日は付き合ってくれて、本当にありがとう、フィリップ。
P:オレもすげー楽しかった。あのイタリアンも美味かったし、今度オレも周りであの店のこと知らないやついたら薦めてみる。
A:いいね、ぜひそうして!
P:……。
A:……。
P:えっと、じゃあ……、またな、アル。
A:!!…うん、またね。
帰路
P:(くそっ……思ってたよりめちゃくちゃ楽しかった…。
ザックもああ言ってたし、最初は不安だったけど…、やっぱりいいやつだったな。撮影のときと何も変わらない。根がマジメで親切で、明るくて話しやすくて、それであのルックスだろ?そりゃモテるわ。
それから、たまに赤くなったり青ざめたりもして、表情忙しいのも面白かったな。撮影のときは、ニコニコしてるかキリッとしてるかだったけど、色んな顔するんだな…あいつ。
オレのことをベタ褒めしてたけど、お世辞じゃないってのも分かる。あいつが「これも似合う」「あれも似合う」って持ってくるせいで、ひさしぶりにこんなに服買っちまったし。まんまと乗せられて、浮かれてたなー…オレ。
でも、また会っても、いい…かも…。今度はオレから誘ってみるか…)
A:(うぅ~~~どうしよう、めちゃくちゃ楽しかった…。
デートって、こんなに楽しかったんだな…。僕が勝手にデートだと思ってるだけなのは、分かってるけどさ…。
浮かれすぎて、彼に色々ヘンなこと言ったりしたりしたかな…?今さら不安になってきた。フィリップがそれを思い出して「やっぱりあいつに会うのはやめよう」って思ってたらどうしよう…。
そうだ、今日のお礼をメッセージで送らないと。でも、何を書いたらいいんだ?あれこれ言わずに、一言だけのほうが良いのかな。「君からすごく良い匂いがしてて、ずっとドキドキしてた」とか絶対送れないよな…本心だとしても。
ああぁ~~~だめだ!!さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。振り返って追いかけて、手を握るだけでもいい…。彼に触れたい。もしまた彼が会ってくれるなら、その日が来るまで、ずっとこんな気持ちを抱えていなきゃいけないのか?そんなの辛すぎるよ…)
END
(200908)