本編より2週間前の、ベルエア家のクリスマスのお話。

登場人物

Ⅴ:ヴァレリー

J:ジェレミー

ベレニス

ロクサーヌ

フィリップ


ベルエア邸 ファミリールーム

V:今年はスタッフの家族とも過ごせて楽しいクリスマスになったわね。

B:ほんとね、ママ。最高のクリスマスだった!

P:ゾーイの料理も、いつもよりさらに超豪華で激ウマだったな。

R:ね、ほんとほんと!彼氏とのデート断って正解だったわ。

V:あら、彼との約束守らなくてよかったの?

R:いいのいいの、どーせ今頃は他の女と遊んでるって。

P:相変わらずどうしようもねー男に引っかかってんのな。

R:うっさいわね、万年非モテのあんたよりマシでしょ!?

P:なんだと!?

B:ほらぁ、2人とも、せっかく久しぶりに会えたんだから仲良くしようよ。

V:そうだわ、ベリーとロキシーはこのあとお家に帰っちゃうの?もう11時だけど。

B:ううん、今夜はここに泊まろうかと思って。

R:そうそう、あたしたちの使ってた部屋キレイなままでしょ。だからアパートへは明日帰るつもり。

V:じゃあ、今夜は家族みんなで過ごせるのね!何年ぶりかしら。

B:……パパもいてくれたら、完ぺきなクリスマスになるのにね。

R:しょーがないじゃん、あたしたちがちっちゃい時に死んじゃったんだから…。

V:……。

B:子どもの頃は、クリスマスイブになると『パパがサンタさんになって煙突から帰ってきますように』ってお祈りしてたなあ。

R:ああー、覚えてる!2人でお祈りしたよね。パパは、クリスマスになるとサンタの格好もしてくれたし。

P:(パパ、そんなことしてたのか。オレが5歳のときに死んじゃったもんな…。ぜんぜん覚えてねえや…)

V:あれね、実はいらなくなった映画の小道具を知り合いのスタッフから譲ってもらって使ってたのよ。

B:そうだったの!?

R:そういえばさ、ママとパパってどうやって出会ったの?まだなれそめ聞いたことない気がする。

B:あー!私も!知りたい!

P:聞いたことないな、たしかに。

V:あれは…、ちょうど私があなたたちくらいの年頃で、初めて主演映画のオファーをもらった時だったの。彼が、その映画の脚本を書いていて…――。

映画配給会社内 回想

J:初めまして。ぼ、僕はジェレミー…、ジェレミー・ベルエアです。

V:こんにちは、ベルエアさん!私はヴァレリー・ルメール。失礼ですが、おいくつ?私と同じくらいかしら。

J:24、です…。

V:あら、じゃあ私より3つ年上ね。

J:そうですか…。

V:私のことは、気軽にヴァレリーって呼んで。

J:はっ、はい…!

V:(綺麗な赤い髪…。私の髪も赤いけど、それよりもっと燃えるような色だわ。でも、さっきからぜんぜん目を合わせてくれない…。顔も髪と同じくらい真っ赤になっちゃってるし、シャイなのかしら)ところで、あなたの書かれた脚本、読ませて頂いたんですけど、とっても素敵なお話だったわ。

J:!…ありがとうございます…。

V:でも、ひとつだけ納得いかない点があるの。

J:

V:1番大切なエンディングよ!主人公たち2人はあんなに深く愛し合っているのに、離れ離れになってしまうでしょ?でも、どうして彼らはそれを幸せだと感じているの?私にはまったく理解できないわ。

J:それは…――。

ベルエア邸 ファミリールーム

R:あたしにも、まーったく理解できないんですけど。

V:それがね、『本当に深く愛し合っているからこそ、離れていても幸せだと感じられることはあるはず。そんな幸せの形もあっていいと僕は思います』って、まっすぐ私の目を見てハッキリ言われたの。

P:さっきまで、あんなもじもじしてたのに?

B:パパ、カッコいい…。

R:あ~…わかった。ママ、それでオチちゃったんでしょ。

V:そうなのよ、ロキシー!初めて正面から見た彼の瞳が、水色と金色が混ざったような美しい色でキラキラ輝いてて、一瞬で吸いこまれてしまったの。まるで宝石(gem)みたいに綺麗だから、思わず『あなたのこと、ジェム(Jem)って呼んでもいいかしら』って聞いちゃった。

P:パパの反応は?

V:目をまんまるくして、真っ赤になって固まってたわ。

B:パパ、かわいい~!

P:それで、パパのことジェムって呼んでたのか。

R:なるほどねー。単純に、よくあるジェレミーのあだ名だからかと思ってた。

B:パパはママに一目惚れだったのかな。

V:あとから聞いたら、女性に慣れてなくて、本当にただ照れてただけみたい。

R:パパってたしかにそういうタイプだったもんねー。

P:(パパの気持ち、すげー分かる…)

V:私も若かったし、「そうねえ、幸せってそんなものかしら」って考え直して…。あんまり納得いかなかったんだけど、なにせ初めての主演でしょ?私も前のめりになってて、あとは最後まで一生懸命お仕事しなきゃって張り切ってたから、そのときはそれっきり。

B:えぇっ、デートに誘ったりしなかったの?

V:それがね、ベリー、その映画を撮ってる最中も、ずっと彼のことが気になっちゃって。彼が何冊か小説を書いてるって監督から教えてもらったから、本屋さんで全部買って、出版社宛てにファンレターを出したの。彼の書くお話は、どれも本当に心が温まる素敵な物語で、読み終わる頃にはすっかりファンになってしまってたから。

B:ママがパパにファンレター!?

P:すっげー意外…!

V:それも何通もよ、ピップ。

R:あたし勝手に逆パターン想像してた!

V:彼の電話番号を知らなかったから、それしか思いつかなかったの。私の連絡先も添えて、もうほとんどラブレターだったわ。

R:(いまだにモテまくってるママに、何通もラブレター書かせてたなんて…。パパすご…)

B:ねぇ、それでそれで!?パパからのお返事は!?

V:最初の3ヶ月はなんにも無くて。でもある日、ポストに真っ白な封筒が入っているのが見えたの。差出人を見なくても、なぜかすぐに彼だって感じたわ。

B:ロマンチック~!

P:じゃあパパ、デートしてくれたんだ。

R:じゃなきゃ、あたしたちここにいないでしょ。

V:あのときは、彼の言っていたことが理解できなかったけど、今なら分かるわね。パパそっくりなあなたたちの瞳を見ていると、彼が今でも隣にいるように感じるもの。

B:ママ…。

P:……。

R:(ママが再婚しないわけだわ…)

V:だから、たとえもうサンタさんが来てくれなくても、私は愛する人たちから返しきれないくらいのプレゼントをもらったから、とっても幸せよ。

B:私も…。ヒューゴとはいっしょにいられないことが多いけど、ママのお話でとっても勇気をもらえた。

R:カレシ、今度はどこに撮影に行ってんの?

B:ユーコン。

P:アラスカ!?こんなクソ寒ィ時期に!?

B:あそこは野生動物の宝庫だから。

V:それは大変ねぇ。風邪を引かないといいけど。

R:もうフォトグラファーっていうより山男か雪男じゃん。

B:いいの、彼が幸せなら。彼が自然を愛しているように、私も彼を愛してるから。それに、彼からも愛されてるって感じるし。

R:はぁ~…、別世界すぎて理解不能。

P:だろうな。

R:ア?なにか言った?

V:ベリーもロキシーもピップも、それぞれの幸せを手に入れてくれれば、ママもそれが1番幸せよ。きっと、パパもね。

B:うん。

R:ねぇママ、もっとパパの話聞きたい。今夜はママの部屋で女子会しない?

V:いいわね!何時間だっておしゃべりできるわ!

B:大賛成~!フィリップもいっしょにしようよ!ママの部屋なら余裕で4人寝られるもん。

P:いや、オレはいいよ。

V:あら、ピップもいっしょのほうが楽しいのに。

R:いいじゃん、本人もこう言ってんだしさ、今夜は女子だけで楽しも♪

P:はいはい、どうぞごゆっくり~。(――オレにもいつか、ママにとってのパパみたいな相手が現われるのかな…。まだ彼女の1人すらできたことねえのに、来月からはゲイカップルって設定で撮影だしなー…。やってらんねぇ…)

END

(211101)