本編より1年前の、ベルエア邸でのクリスマスのお話。
登場人物
C:シャーロット
H:ハンス
Z:ゾーイ
F:フランカ
V:ヴァレリー
ベルエア邸 ダイニング
Z:あなたがシャーロット?はじめまして!私はヴァレリーのパーソナルシェフ、ゾーイ・カロンゴよ。
C:ゾーイさん!初めまして。シャーロット・エリクセンです。
F:チャオ、シャーロット。あたしはヴァレリーの専属ドライバーやってるフランカ。フランカ・リッチ。会えて嬉しいよ。ダンナとはしょっちゅう顔合わせてるけど。な、ハンス。
H:……。
C:フランカさん、はじめまして!いつもダーリン…、お、夫が、お世話になってます。
F:こちらこそ。あんたのダーリンは、いつもあたしらのガードまでしてくれてるしさ。契約外だってのに。
C:そうなんですね…(さすが私のダーリン…♡)あ、私のことは気軽にシャーリーって呼んでください。周りの人たちもみんなそうしてるので。
Z:手まで繋いじゃって、いつもお熱いみたいね~♡
H:……!
C:や、やだ、そんなぁ…。…あれっ?そういえば…ヴァレリー様はいらっしゃるんですか…?それと、お子さんたちも。
Z:ああ、ヴァレリーなら、サイラスとノアと一緒に下のバーで飲むって言ってたわよ。サイラスとノアのことは知ってる?
C:はい。夫から聞いています。
F:フィリップなら、タイタスと自分の部屋でゲーム。ったく、クリスマスだってのに。
Z:あの子たち、いつもあんな調子だからね。ベレニスとロクサーヌはまだだけど、そろそろ来るんじゃないかな。
C:そうですか…。
Z: …ヴァレリーのことが気になる?ハンスから聞いたけど、大ファンなんだって?
C:やだもう~~!!ダーリン、話しちゃったの!?
F:ヴァレリーにも話しちゃったよな。
C:ヴァレリー様にも!?
H:す、すまない…。
C:私には雲の上の存在だから、そっと陰から見つめているだけで十分なのに…。ご本人に存在を認識されたくない…。
Z:な、なんだか複雑そうなファン心理ね…。
C:だから正直、私なんかがここにいていいのか…、もうとにかく緊張で、さっきから汗がヤバいです。
Z:大丈夫よ、ヴァレリーは怖い人じゃないから。ところでシャーリー、その袋はプレゼント用?
C:ええ。プレゼント交換があると聞いたので、ダーリ…、夫と2人分用意してきました。どこに置けばいいですか?
F:図書室の吹抜けのとこ。今年はあそこにツリー立てたから、その下……っつっても、場所分からないよな。ハンス、持ってってやんなよ。
H:…ん。
C:ダーリン、お願いね。ありがとう。
Z:……ねぇ、シャーリー。愛しのダーリンとはどうやって知り合ったの?
C:えぇっ!?
F:なにいきなり小声になってんだよ、ゾーイ。ハンスいないんだし普通に喋れって。
Z:なんとなくよ。
C:え、えっとですね…、私がインストラクターとして勤めていたジムに、彼がリハビリで来て…、それで、一目惚れしちゃったんです。
Z:おぉ~~!一目惚れかー!
F:あいつ、ネイビーシールズだったのを怪我で除隊して、ボディガード業に移ったってヴァレリーから聞いてたけど、リハビリをシャーリーのジムでしたのか。
C:はい!もうダーリンったら王子様みたいにカッコ良くて…!…って、あの、なに言ってるんだろ私、すみません…!!
Z:で、で、プロポーズは!?
F:すごい食いつくね、ゾーイ。シャーリーがビビってるじゃん。
Z:だって、あのハンスのプロポーズよ?気になるでしょうが!
F:たしかに。普段のあいつときたら、無表情で”Yes, ma’am.”しか言わないしな。
C:それが、プロポーズというか…、私の実家に彼と行ったとき、両親の前でいきなり「俺が彼女を一生守ります…たとえ夢の中でも」って言われたんです。
Z:ウソでしょッ!?あのハンスが!?
F:あいつそんなロマンチストだったのかよ!?
C:私もビックリしちゃって…。
Z:そうよねー…。ギャップありすぎ。
F:(ヴァレリーやサイラスたちにも教えてやらねーと…。もしかしたらヴァレリーは知ってるかもだけど、サイラスはたぶん知らねーよな。ハンスはそういうの自分から言うタイプじゃねーし)
Z:結婚して何年目?
C:3年になります。
Z:それであんなにラブラブ!?そろそろ新婚気分も落ち着いてこない?
F:良いことじゃん。
Z:はぁ~、尊敬するわ。うちなんて2年目ですでに倦怠期だったのに。
C:えっと、ゾーイさんってたしか…。
F:そ、離婚済みで今は1児のシングルマザー。もともとあんまり性格合わなかったんじゃね?
Z:ちょっとー、ハッキリ言わないでよフランキー。その通りだけどさ。
C:すみません…。
Z:いいの、いいの。息子とここのゲストハウスに住まわせてもらってる今のほうが、結婚してたときの100倍幸せだから。
C:私こそ、おひとりで息子さんを育てているゾーイさんを尊敬します。それに、ヴァレリー様と同じ家に暮らすなんて、私なら心臓マヒ起こしちゃいそう。
F:心臓マヒ!?
Z:あははっ、シャーリーならそうなるかもね。
C:だから…夫がヴァレリー様のボディーガードに就くと決まったときも気絶しかけてしまって。それで、すぐにインストラクターを辞めて、ヴァレリー様を守る夫の心身を支えるために主婦になったんです。
Z:素晴らしいじゃない、シャーリー。ヴァレリーを間接的に支えてることにもなるわね。
F:こんなところに縁の下の力持ちがいたんだな。ハンスを通して、あたしらもシャーリーに支えられてたわけだ。
C:そ、そんな大したことでは…!ところで、ゾーイさんとフランカさんはどうやって今のお仕事に就かれたんですか?
Z:私は、働いていたレストランにヴァレリーが来店して、そこでスカウトされたの。
C:わぁ…、素敵!
F:そうそう、まったくヴァレリーらしい誘い方でさ。
C:ど、どんな感じだったんですか!?
Z:それがね、その日もいつも通り忙しく働いていたんだけど、接客をしていたスーシェフが顔色を変えて厨房に飛び込んでくるなり、「ヴァレリー・ベルエアが君を呼んでるぞ」と耳打ちしてきたの。「セレブから直に呼びつけられるなんて…まさか私の担当した料理に問題があったんじゃ」って、訴訟にでもなったらどうしようと青ざめたわよ。
C:えぇ…!?
Z:それで、恐る恐るテーブルに近づいたら、ヴァレリーがすっと立ち上がって、「あなた、お名前は?私、一生あなたのお料理を食べたいわ」って私の目をまっすぐ見ながら言ってきたの。
F:もはやプロポーズだよな~!
C:わぁぁ~…!!
Z:今だから言えるけど、元ダンナからプロポーズされたときよりもときめいたわ。心臓止まるかと思った。
F:ヴァレリーはそういうとこ天然だからね。
C:(私だったら確実に昇天してる…)
Z:フランキーの誘われ方のほうが面白いのよ、シャーリー。
F:あたしのはそこまでドラマチックじゃないぞ。元々、レーサーやってたんだけど、もっと金になるっていうんで、スタントドライバーになったんだ。
C:えぇ!?危険な目に遭いませんでした?
F:そりゃあね、危ないことも何度かあったけど、浮気性なパパのせいでさんざん苦労してたママに早く楽させてやりたかったからさ。
Z:その心意気は尊敬するけど、ほんと命知らずね、フランキーは。
F:で、ある映画の撮影でヴァレリーと知り合って、すぐウマが合ったんだよね。それから何年か経って、「もう若くもないし、スタントも潮時かな」って思ってたとき、「フラン、あなたの彼氏――あ、カレシってあたしの愛車のことなんだけどさ――…とってもセクシーよね。私も毎日乗りたいわ」って言われて、その時は「エロい誘い文句みたいじゃん」って笑ってたんだ。でも、それでなんだか吹っ切れちゃって、あたしから専属ドライバーにしてくれないかって提案したってわけ。
Z:やだぁ、アハハッ!正反対な性格だけど、ほんと姉妹みたいに仲良しだもんね、2人とも。
C:(あのヴァレリー様とそんな関係になれるなんて、フランカさんすごいなぁ…)あの、フランカさん…もしかして、その映画って『ショットガン・ライダー』ですか?
F:おお、よく分かったじゃん、シャーリー!そう、その映画。
C:ヴァレリー様の出演作で、スタントドライバーが出てくるような作品ってあまり無いので、もしかしたらと…。
Z:すごいねシャーリー、本当に大ファンなんだ。たしかに、ヴァレリーってアクション系にはあんまり出ている印象ないもんね。
C:ええ。ヴァレリー様の違った一面が見られて、お気に入りの作品のひとつです。
F:マジで!?嬉しいな!(後でヴァレリーに教えなきゃ)
V:あら、楽しそうね。何のお話?
C:!?!?
Z:ヴァレリー!ちょうどあなたの話をしてたのよ。
V:私の?
F:そうそう、このシャーリーと…、ってシャーロットには初めて会うんだっけ。
V:ええ、ハンスから聞いてるわ。初めまして、ロッティー♡ハンスの言う通り、本当に可愛らしいお嬢さんね。
Z:(ハンス、ヴァレリーにどんな紹介したの!?)
C:ろっ、ろろろろろっ、ろっ、てぃ…!
F:おい、シャーリー、しっかりしろ!
END
(211214)