フィリップの実家で、母ヴァレリーに会うフィリップとアレックスのお話。

登場人物

フィリップ

アレックス

ヴァレリー

サイラス


ベルエア邸 玄関

P:よう、アレックス。

A:おはよう…フィリップ。…君のお母さんはもう家にいるの?

P:ああ、今日はオフだしな。だからおまえに会わせようと思ったんだ。応接間でオレらを待ってるよ。

A:そっか…。

P:なんだよー、どうした?おまえでも緊張することってあるんだな。

A:僕、そんな緊張した顔してる?

P:顔っていうか、全身?別にモンスターが待ち構えてるわけじゃねーし、深呼吸して落ちつけよ。

A:…そう、だね。

P:いや、でもモンスターより怖ぇかも。

A:えぇッ!?

P:なにせママは、周りの人間ぜんぶ巻き込むハリケーンみたいな人だからさ。すげーマイペースだし。でも悪い人じゃねーから心配すんなって。

A:うん。ところで、彼女は僕らの関係を知ってるの?

P:!…いや。

A:それじゃあ…今日言うつもり?

P:……。

A:僕から言おうか?

P:でも、どう言えばいいんだよ。だってオレら、その…まだキスしただけで…、デートだって数回しかしてないんだぞ。

A:それで十分じゃないか。

P:おっ…、おまえ基準ではそうかもしんねーけどさぁ~!

A:こんなチャンスは無いんだ。だから、僕は正直な気持ちを伝えさせてもらいたい。

P:…ママに何て言うつもりだよ。

A:そのままさ。君とデートしてる関係だって。

P:

A:もし…彼女に拒否されたり反対されたりしても、僕は君のことをぜったいにあきらめない。

P:アレックス…。

A:君に嫌われたら…その時は…。それでも、あきらめたくない。

P:…嫌いになれるわけねーだろ。ほら、さっさと行くぞ。

A:…うん!

ベルエア邸 応接間

V:それで…?わざわざ私を呼び出してまで、お友達に会わせたかったの?ピップ。

P:ちょっ、そのガキくさい呼び方やめてって言ったろママ!

V:だってあなたは、いくつになっても可愛い私の赤ちゃんなんだもの。それで、この子のお名前は?

A:お忙しいところ、お時間を割いて頂き有難うございます、ミセス・ベルエア。アレハンドロ・シルバラードと申します。アレックスとお呼び下さい。息子さんとは同じ事務所と契約してモデルをしています。

V:あら、そうなの。

A:今日は、息子さんとお付き合いしていることをお伝えするために伺いました。僕は、本気で彼を愛しています。

P:!?

V:まあ………。

P:アル…っ、急に何言ってんだよ!?違うんだママ、聞いて。

A:僕の正直な気持ちです。

P:いや、だとしても、これはいきなりすぎんだろ!!

V:じゃあ、私は息子が2人になるってことね…!ああ、神よ感謝します。

P:だからママっ、そんなデカい話じゃなくて…!

A:有難うございます…!!よろしくお願いします!

P:お、おまえなぁ…っ!

V:もぉ~~どうしてもっと早く言ってくれなかったの、ピップ。ママは息子がもう1人欲しかったのよ!

P:……。

V:どうしたの?そんな顔して。

P:だって……息子に彼氏がいるなんて知ったらショックかな…って思ってたから。

A:フィリップ……。

V:やだ、あなた忘れちゃったの?私のパーソナルアシスタントをもう20年以上も勤めてるサイラスは、ゲイでパートナーのノアと暮らしているじゃない。何も驚くことなんてないわ。あなたはあなたのままでいればいいの、ピップ。それがママの幸せよ。それに、あなたが選んだ相手なら間違いないもの。

P:……そっか。

A:フィリップ、大丈夫?

:…なんか一気に力が抜けた。

A:ははっ、僕もだよ。

V:サイラスと言えば、たしかそのへんにいたはずだわ。呼ばなきゃ。サイラスー!あなたどこにいるの?

P:どうしてサイラスを?

V:だって今日は、私の天使が初めて恋人を連れて来た記念すべき日じゃない。ピップとレクシーと私の3人で記念撮影に決まってるでしょ。

P:『レクシー』?

V:アレックス+セクシー=レクシー♡

P:ハァッ!?

A:有難うございます、ミセス・ベルエア。

P:ありがたくねーだろ!

A:気に入ったからさ。君にもそう呼ばれたい。

P:死んでも呼ばねえ。

V:本心では呼びたいのよ、この子。

P:そんなわけないだろ!

V:誰に似てこんな素直じゃないのかしら。きっとあなたのパパね、初デートのときからすごくシャイだったから。キスひとつしてきやしないから、私からしようとしたら…。

P:まってママ、その話はあとで!

V:そう?それじゃレクシー、私のことはヴァレリーって呼んでちょうだい。ママでもいいわ。

P:よ く な い 。

A:光栄です、ヴァレリー。

V:ねえ、それよりあなたたち、このあと時間あるかしら?よければお食事しない?ゾーイに何か作ってもらいましょ。

A:ゾーイ?

P:ママのパーソナルシェフ。ゾーイが作る料理は、フレンチのフルコースだろうがハンバーガーだろうが、何でも美味いんだぜ。

A:それ聞いたらなんだか腹が空いてきたね。

V:そうよ、こんなところに突っ立ってないでダイニングへ行きましょう。あ、その前にサイラスに撮ってもらわなきゃ!ああ、サイラス、いいところへ来たわ。こっちよ!


C:お呼びですか、ヴァレリー。おや、こんにちは、フィリップ。

P:やあ、サイラス。ノアは元気?去年のクリスマス以来会ってないからさ。

C:ええ、おかげさまで。彼もあなたに会いたがっていました。ところで、こちらのお客様は…。

V:紹介するわね、サイラス。この子はピップのボーイフレンド、レクシーよ。私の新しい息子。可愛いでしょ?ピップは見る目あるわ。

P:ママ!!

C:それはそれは…。初めまして、サイラス・クラークと申します。

A:初めまして、クラークさん。アレハンドロ・シルバラードです。僕のことは気軽にアレックスと呼んでください。

C:では、アレックス、私もサイラスで結構です。

V:さあ、あいさつはそれくらいにして。サイラス、私たち3人の写真を撮ってくれない?場所は…そうね……。

C:リビングの暖炉の前ではどうです?

V:ああ、あそこならピッタリね。さすがよ、サイラス。温かな家族って感じが出るわ。

C:ええ。

V:はい、じゃあこれ私のスマホ。


P:な?言ったとおりだろ。ママの半径5mに近づく人間は、みんなママのペースに巻き込まれる。ママはいつだって常にハリケーンの中心にいるんだ。

A:僕は好きだな、彼女のこと。君によく似て、すごくチャーミングな人だ。それと、面白いあだ名をつけるのが得意なところもそっくり。

P:……うっせーよ。

A:さあ、とびきり良い笑顔で映ろう。いつもの撮影と違って気楽にさ。

V:2人とも、早くいらっしゃい!


V:ん~~キュートな笑顔ね、レクシー。とっても良く撮れてるわサイラス。

C:ありがとうございます。ただいま、お茶の支度をしてまいりますので。

V:ありがとう。それにしても、モデルとは思えないぎこちなさね、ピップは。嬉しくないの?

P:恥ずかしいんだよ、こういうの。

A:でも良い記念になったよ。

V:レクシーの言う通りだわ。じゃあ送信しちゃお。

P:!?ま、ママ、誰に送るつもり!?

V:ベリーとロキシー。

P:どうしてあの2人に!?姉ちゃんたちに送ったら、全世界にバラまくのと同じじゃないか!特にロクサーヌ!

V:だってあの子たちはあなたのお姉ちゃんじゃない。知る権利があるわ。

P:やめてよママ!一瞬でSNSに載せて拡散されるんだって!

A:僕は気にしないけど。

V:レクシーもこう言ってるわよ、ピップ。

P:こいつはいつだってこうさ。

V:早くお姉ちゃんたちにも会わせたいのに。

P:ぜってーやだ……。とにかく今はダメだ。

A:君さえ良ければ、僕はオープンにするつもりだよ。世界中の誰にどう思われて、何を言われても、僕は君の味方だからね、フィリップ。でも君が嫌がることはしたくない。

P:…アレックス…。

V:私も味方よ♡

P:……。

C:失礼します。お茶の支度ができました。

V:さ、行きましょ。ゾーイに何を作ってもらおうかしら。

A:楽しみだね、フィリップ。

P:もう何食べても味がしなそうだけどな…。

END
(200302)