『Be my love』の夜のお話。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
アレックスの部屋 バスルーム
A:(ついに、ついに…フィリップとキスしてしまった!!夢じゃないよな!?しかもフィリップからしてくれるなんて、思っても見なかった。もしするなら、ぜったい僕が衝動を抑えられなくなってしてしまうって思ってたから…。ああ、もう嬉しくて嬉しくて、思い出しただけで泣きそうだよ…。僕を生んでくれた両親と神様に感謝しかない。
しかも彼、童貞だって!?いや、ウソじゃないよな…本人の口から聞いたんだから。いまだに信じられないけど。てっきり僕よりよっぽどハデに遊んでるとばかり思ってた。完全に勝手な先入観だ…ごめんフィリップ。
でも、童貞ってことは、もし僕が彼とキス以上のことをすることになったら、どんなことをしたって、彼の初体験はぜんぶ僕だけのものにできる。…絶対に、死んでも、他のやつになんて譲るもんか。
――とはいえ、結局あの後、雨も止んでフィリップが運転手を迎えに呼んだから、泊まってくれなかったのは残念だった…。
ま、そんな急に事が進むわけないさ。逸るな、アレハンドロ。やっと、この想いが通じたんだ。僕が彼のことを愛していることも伝えられたし、彼も僕のことを好きだと認めてくれた。うわ、だめだ…、また泣きそうになってきた。
恋愛ってこんなに楽しかったんだな…。今まで付き合ったどの女の子たちも、みんな可愛くて、優しくしてくれて、キスもハグもデートも、セックスだって沢山したけど、こんな気持ちにはならなかった。
それなのに…、手すら繋がなくても、フィリップのあの瞳に見つめられているだけで、自分はこのために生まれてきたんだって強く感じられる。僕はすごく幸せだ。
……でも、次に会う時は僕からしてみてもいいのかな…キス。やっぱりしたい。もしできなくても、彼の透けるような赤い髪に指を差し入れて、力の限り抱きしめたい。
ただ…今日僕からキスした時はとても怖がらせてしまったから、そのせいでフィリップが僕から触れられるのすら怖くなってたりしたら、どうしよう…。もしそうなったら、立ち直れそうにもないや……)
ベルエア邸 フィリップの部屋
P:(ついに…ついにアレックスとキスまでしちまった…。遅かれ早かれこうなる予感はしてたけど…。つーかキスしたのオレからだし。ただ、ひとつ分かったのは、ほんとに好きな相手とするキスって、かなりヤバいんだ…ってこと。
女の子としたときも、そりゃドキドキしたけど、あんなのと比べものにならなかった。全身シビれて力入んねーし、立ってるのがやっとで、腕も足もふわふわして自分のものじゃなくなったみたいで…。
あいつからキスを返されたときはついテンパって拒否っちまったけど…できるなら、あいつの部屋に戻って、もう1回キスしたい…かも。……いやいやいや、やっぱ怖いな…。そのうち慣れんのかな…。
今まで、女の子とデートしたことはあったけど、こんな関係になったことは1度も無かった。だから、いまだに童貞だし…。それに、一緒にいてこんなに楽しい相手もいなかった。ヒマになったら会ってくだらねーこと言い合いながらつるむ相手は何人かいるけど、そんなのとは全然違う。それに…『愛してる』なんて、家族以外の人間から言われたこともなかった。
ああぁ~~…なんだこれ、ほんっとワケわかんねーよ…。このオレが男を好きになるなんて。1年前だったら、誰に言っても「おまえ冗談キツいわ」って笑われておしまいだったのに。
でも今は……自分でも信じらんねえくらい、アレックスが好きだ。あいつのこと考えてるだけで胸が苦しくなるし、顔見ると意味も無く泣きそうになってくる。なんなんだよこれ…これじゃ恋愛脳の女子高生みてーじゃん!
しかも、まだたった5回デートしただけだぞ?恋愛って、たったそれくらいでこんなふうになるもんなのか?…いや、でもあいつはオレに一目惚れした…って言ってたし、こんなことだってありえるのか…。ああ~~次会う時、どんな顔すりゃいいんだよ!
――次…、か。あいつをうちに呼ぶってのもいいな。きっと喜ぶぞ、アレックスのやつ。もしママのスタッフに見られても、いつもみたいにダチ連れて来たとしか思わねーだろうし、問題無いよな)
着信音
P:!(…アレックスか!?)
……なーんだ、ママからか。もう撮影終わったんだ。じゃあ、週末あたり帰ってくるかな…
(…そうだ…!ママのスケジュールさえOKなら、アレックスと会わせるってのも面白そうだぞ。ママは近づく者みんなを巻き込むハリケーン人間だからな。いつもオレのことを振り回すあいつが、ママとぶつかったらどうなるんだろ。やべ、なんか楽しくなってきた。とりあえずママに聞いてみよっと)
アレックスの部屋
着信音
A:!(フィリップからの着信音だ…!)
……えぇッ!?(あのヴァレリー・ベルエアに、僕を会わせたいだって!?あの名優ヴァレリー…つまりフィリップの母に、僕を紹介するってことは……つまり、そういうことだよな。
いや、でもそんな、気が早いよフィリップってば!彼女のスケジュールを押さえるのなんて大変だっただろうに…まさか、彼がそこまで本気だったなんて……。
彼女に会えるのは来週末か。それなら僕のスケジュールも空いてる!良かった~!僕、今日で人生の運をぜんぶ使い果たしたんじゃないのかな。
フィリップの父親は、彼が幼い頃に病気で亡くなったと聞いたから、ヴァレリーは俳優業をこなしながら、フィリップやお姉さんたちを苦労して育ててきたんだろう。きっと子どもたちのことを何よりも深く愛しているはず。そんな人に、まだ知り合って間もない僕の彼への想いが伝えられるのか…?
いや…、伝えたい。僕は本気だ。
今日たった2回キスしたばかりで、互いのことだってそんなに深く知らないけど、でも、そんなのはこれからいくらでも知っていけばいい。時間はたっぷりある。だけど、きっと彼のような人には2度と巡り会えない。だから僕は、彼のことならどんなことだって受け入れるつもりだし、誰の目もはばからずに堂々と愛したい。
――って、それより、母さんからもらったアイロン出してこなきゃ!よれよれのシャツでヴァレリーに会うわけにいかないよ!)
END
(200516)