サイラスとノアのなれそめのお話。

登場人物

V:ヴァレリー

C:サイラス

N:ノア


ベルエア邸

V:あら、あなたがノアね。会えて嬉しいわ!私のことは気軽にヴァレリーって呼んでちょうだい。

N:はっ、初めまして、ヴァレリー。(本物のヴァレリー・ベルエア…!画面で観るよりもっと華奢だが、しかし圧倒的な華やかさだな…)

V:もぉ~こんなに素敵な恋人がいるのに、サイラスったらもったいぶって、なかなかあなたに会わせてくれないんだもの。

C:…申し訳ありません。

V:それで、あなたたち、どうやって知り合ったの?なれそめを知りたいわ。

N:それは…――。

初デートの日

N:(新しくマッチングした彼…、正直ものすごく僕の好みだし、できればデートしたいけど、名前も顔もあのサイラス・クラークと同じだ。はたして彼が、デートアプリなんて使うだろうか?悪質ななりすましかイタズラかも…。

サイラス・クラーク――『MDB(ムービー・データベース)』によれば、イングランド出身の俳優で、現在48歳。恋人だった俳優が事故死してからは、俳優仲間だったヴァレリー・ベルエアのパーソナル・アシスタントを務めている――

……こんな男がデートアプリで僕とマッチングだって?ますます怪しい。あの角を曲がれば、彼と待ち合わせをしているカフェだが、こうなったらどんなやつが出てくるのか見てやろうじゃないか)

N:……んっ?(あのテラス席に座ってる男…写真と同じだ…!まさか、本当に本人なのか!?信じられない…!!どうしよう、これは声をかけるべきだよな…。あぁ…もう佇まいからして惚れ惚れしてしまう……)


N:あ、あのっ…!

C:?…ああ!君がノアかい?こんにちは。初めまして、サイラス・クラークです。

N:僕はノア…、ノア・ゴールドスタイン。…失礼ですが、俳優のサイラス・クラーク?

C:ああ。『元』だけどね。

N:いやっ、なんというか、本当に本人が来るとは思わなくて…。

C:それが実は…ひどくおせっかいな友人がいてね。悪いやつじゃないんだが、勝手に僕をデートアプリに登録してしまったんだ。「おまえはマジメすぎるから、気晴らしにデートでもしろ」って。

N:そうだったのか!

C:最初は、少し腹を立ててもいたんだけど、たしかにここ数年は働きづめだったからと思い直して。

N:…で、僕とマッチングしたと。

C:そういうことだね。

N:あははっ!なんだ~…僕はてっきりなりすましかイタズラだと思って、そこの角で身構えてたってのに!

C:…写真だと分からなかったが、君は笑った顔がとても素敵だね、ノア。

N:ハ!?

C:私も…半信半疑だったし、さっきまですごく緊張していたんだ。まるで、初めて舞台に上がったときのように。昔は、こんなふうにデート相手を探すなんて考えられなかったし…。

N:たしかに。今は便利な時代だよね。

C:ああ。でも、笑う君を見ていたらほっとしたよ。今日こうして知り合えて良かった。君、大学で助教授をしているんだろう?

N:えっ、あ、ああ…。

C:色々聞かせてほしいな。さあ、座って。コーヒーでも飲んで話そうか。

N:~~…ッ!(もし偽物だったら、罵倒の言葉ひとつでも浴びせてやろうと思っていたのに…。ブリティッシュ独特のアクセントもたまらなくセクシーだし…こんなの反則だ。…僕の完敗だよ…)

サイラスとノアの家

N:ただいま、ゲイル、バイロン!いいこにしてたかい?僕は今日、凄い人と会ってきたんだぞ~、誰だと思う?

C:素敵な人だったろう?

N:ああ、彼女とは3時間ほど話しただけだったが、まるで少女のように無邪気なのに、聡明で芯の強い人だと感じたよ。君が近くで支えたくなる気持ちが、今ならとてもよく分かる。

C:そう、彼女は僕のことも支えてくれる、かけがえのない人なんだ。

N:…へぇー。

C:妬いてるのかい?もちろん、君やこの子たちも同じだよ。

N:だってさ、ゲイル、バイロン。浮気されたら尻に噛みついてやろうな。

C:そんな日は来ないよ。君こそ、私のことなんかそっちのけで彼女とばかり楽しそうに話していたじゃないか。

N:サイ…、君って見た目から想像できないほど嫉妬深いよね。

C:そんなところも好きだろ?

N:っ、…大好きです。

C:真っ赤になってる君の顔、本当に可愛いね…ノア。出会った時から変わらない。

N:あぁ~~、くそッ!見たか、おまえたち?さっきの勝ち誇ったような彼の顔!いつだって僕の負けなんだ!

END

(210805)