フィリップとアレックスが、アレックスの母メリンダに会いに行ったお話の続き。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
R:ロクサーヌ
M:メリンダ
L:ロレンソ
ロクサーヌの部屋
A:アハハハッ!あの日突然帰っちゃったからどうしたのかと思ったら、そんな理由があったのか。それにしても、あの鉄仮面に向かって君が啖呵切るところを見たかったなあ。
R:笑ってる場合じゃないわよ、レクシー!弁護士目指してる人を犯罪者呼ばわりしちゃったんだよ?あたし訴えられたりしない!?
P:慰謝料の支払いがんばれ~。
R:あんたは黙ってて!
A:心配ないよ、ロクサーヌ。兄さんは勉強が忙しくて、そんなこと気にしてるヒマ無いさ。
R:そうなの?…でも、やっぱり一言謝らなきゃ。
P:あんなこと言われたのにか?姉ちゃんだけじゃなく、オレらのことだって馬鹿にしてたんだろ?
R:そりゃあたしだってムカついたよ?もうちょっとでグーで殴るところだったし。それでも、あたしもヒドいこと言ったのは変わんないしさ…。
P:結局、気に入ったイケメンのご機嫌損ねたくねえだけだろ。
R:そんなんじゃないわよバカ!…それよりごめんね、レクシー。あなたのお兄さんなのに。
A:僕は気にしてないけどね。実際、兄さんらしいよ。でもフィリップのことを悪く言われたのはぜったい許せない。
P:おい…アレックス、次会ったとき殴ったりするなよ。
A:…できるだけ努力はする。
R:とにかく、ロレンソと連絡取れない?会って直接謝りたいの。あたしの気持ちの問題だから。
A:実は…僕、兄さんの番号知らないんだ。
P:ハァッ!?おまえの兄貴だろ!?
R:どうして!?
A:僕ら…なんていうか、特に仲が良いってわけでもないし、君たちみたいに兄弟で話すことも無いんだよ。だから…。
P:マジかよ…。ベレニスもロクサーヌもくだらねー画像を毎日のようにぽんぽん送ってくるのに。
R:くだらないって何よ。
A:母さんなら知ってるから聞いてみよう。事情は言わないほうがいいだろうから、ただ僕が兄さんと話したいからってことで、番号だけ教えてもらうよ。それで、僕から兄さんにメッセージを送ってみる。たぶん今頃は講義で忙しくて通話は無理だろうしね。
R:わーー!ありがとう~~!!レクシー大好きっ、愛してる!
A:うわっ!
P:…!!
R:?…その目は何よフィリップ。ほっぺにキスするくらい別にいいでしょー?ただのあいさつじゃん。レクシー、こんなヤキモチ焼きといて疲れない?
A:あはは、ちっとも!むしろ幸せだから。僕は君一筋だから安心して、フィリップ。
P:…別にヤキモチなんか焼いてねーよ。
R:いや思いっきり妬いてたでしょ。
A:ところで、ひとつ心配なのは、あの兄さんに気持ちが通じるかどうかってことだ。
R:それは、やるだけやってみる。でも、メリンダにも事情は話したいの。だってあたし、彼女のこと大好きになっちゃったし、後ろめたいことしたくないもん。
P:オレも、メリンダのことはすげー気に入った。料理も上手くて、うちのママとはまるで違うけど、あんな母親も欲しかったなって思う。兄貴はちょっと苦手だけどな…(アルバムに入ってたガキの頃の写真は無邪気そうで可愛かったけど)。
A:…2人ともありがとう。じゃあ母さんに聞いてみるね。
=着信音=
A:うわっ、ちょうど母さんからメッセージが来た…!
P:は!?
R:何それすごい偶然!
A:………ウソだろ。
P:なんだよアレックス、ヤバいことでも書いてあんのか?
R:やだ、メリンダに何かあったの!?
A:…「ロレンソがロクサーヌに会って話をしたいと言ってるから、もし彼女が許可してくれたら連絡先を教えてほしいの」…だって。
P:ええッ!?
R:ウソでしょ……ねえヤバいよぉぉ~~…これってさぁ…マジであたし訴えられちゃう流れじゃない!?
A:やっぱり僕もついていこうか?訴えられたりはしないと思うけど、あの兄さん相手に君ひとりじゃ心配だ。
P:オレも行く。
R:……ううん、大丈夫。あたしだって弁護士とボディガードくらいは用意できるし。
P:まあな。
A:でもすごく心配だな…。
P:何かあったら、すぐにオレかアレックスに連絡しろよ?
R:ほんとに何から何までありがとう~2人とも。特にレクシー、このお礼は必ず後でするから。
A:そんなのいいよ。君は家族みたいなものだから、助けるのは当然だ。困ったことがあればいつでも頼ってほしい。僕らも助けが必要なときは、君を頼るかもしれないしね。
R:じゃあ2人の結婚式のブライズメイドはあたしとベレニスにやらせて♡
A:!?
P:まっ、ブライズメイドって…、ロクサーヌ!!いきなり何言ってんだよ!!
R:ベストマン兼ねてもいいわよー。あたしたちスーツも似合っちゃうし♡
P:い、今はそんな話してる場合じゃねーだろ、ロレンソと会う場所と日にち決めないと!おい、アレックス!…アルッ!!ぼーっとしてねーで返信しろって!
A:あ、ああっ、そうだった!返信!
R:どんなドレスにしよっかなー♪
P:もう黙ってろ!
A:じゃあ母さんには事情と君の番号を伝えるね。あとは兄さんと直接やり取りしてもらうことになるけど大丈夫そう?
R:まかせて!がんばるっ!
AC市内の公園 1週間後
R:ごめんなさい!待たせた!?
L:いや…、俺も今来たところだから。
R:………。
L:………。
R:あのっ、この前はあたし――
L:この前は酷いことを言って、本当にすまなかった…!!
R:!?
L:実は、あの日…君たちが帰ったあと、俺たちの様子を不審に思った母から問いただされて、すべて話したんだ。そしたら、もの凄い平手打ちを食らってさ。
R:メリンダが…(じゃあ、もう彼女はぜんぶ知ってて…)
L:当然だよな…。君や弟たちを傷つけるようなことをしたんだから。それで、君に一言だけでも謝りたくて…母に頼んで、弟を介して君の番号を教えてもらった。
R:それならあたしにも謝らせて、ロレンソ。あなたのことを犯罪者だなんて言ったんだから。
L:…そう思われても仕方ない。自分でも、最低なことを言ったと思ってる。だから、俺のことは許してくれなくていい。ただ、どうやって償ったらいいか分からなくて…。
R:ロレンソ………。
L:本当にすまない、ロクサーヌ…。君の言う通り、俺には人を助ける資格なんて無い。
R:そんなことないってば!今こうしてちゃんと自分のしたことを反省して謝ってるじゃない。本当にクズ野郎だったら、そんなことできないでしょ?これが十分な償いよ。それに、困ってる人を助けたくて弁護士を目指してるんじゃないの?
L:……俺が弁護士を目指したのは…父の影響が大きい。父は弁護士で、特に移民の人たちのサポートをしていたんだけど――うちも元々メキシコ移民の家系だからね――、そんな父の背中を見て育った俺は、自然と父に憧れるようになっていったんだ。
R:立派なお父さんね…。
L:ああ。父は個人事務所で細々と仕事をしているけど、俺はそんな父を超えたくて、大手の事務所に所属して、一流企業相手の仕事をこなそうなんて思い上がっていた。…それが、そもそもの間違いだったんだ。人を助けるのに、場所や見栄なんて関係ない。君のおかげで、考えを改めることができたよ。
R:待って、まさか弁護士目指すのやめちゃうの!?あんなに頑張ってるのに!
L:いや、ここまで学費を出してくれた両親を裏切ることはしたくないから、資格の取得は目指すよ。俺の夢でもあるしね。弱い立場の人たちを助けたい。
R:ああ~…それなら良かった…。
L:そして、父さえ許してくれれば、将来は父の事務所で一緒に働きたいとも思ってる。
R:それ最高じゃない!ぜったいお父さんも喜ぶって!
L:そう願ってるよ。
R:でも羨ましいなー…きちんとした将来のビジョンっていうの?夢を持っててえらいわ。あたしなんて、最初の夢は『パパのお嫁さん』だったくらいだし。
L:ははっ、可愛い夢じゃないか。
R:!!(えっ…?今笑った…?笑ったよね!?ロレンソ、めちゃくちゃ可愛い顔してた…!)
L:今の夢も、お嫁さんなのか?
R:へっ!?あ、あぁ~…まあ、ね……。結婚はできればしたいけど、ほら、知っての通り…こんな性格じゃん?すぐ色んな人を好きになっちゃうの、あたし。あっ、でもね、あなたが見た写真の人たち…たしかにぜんぶ元カレなんですけどぉ~…、あたしは毎回本気だったんだ。みんな大好きだった。ぜーんぶフラれちゃったり、浮気されたりで別れちゃったけどさ…。
L:……バカだな。
R:はい?
L:そいつらさ。君を捨てるなんて。
R:エッ!?えっ、あ、でしょー!?ほんっとバカな男たちよね!
L:俺も含めてね。君のことを誤解してた。
R:…!
L:今度、君の弟やアレックスともきちんと話すよ。アレックスと言えば、あいつはちゃんと勉強していれば、おそらく俺よりも頭が良いはずなんだ。だから、あいつも父や俺のように大学に進むとばかり思っていた。それが、いきなりすべて捨てて芸能界入りだろ?あの時はさっぱり理解できなくて…。
R:………。
L:今にして思えば、俺はただ、あいつが羨ましくてたまらなかったんだ。自由に生きてるように見えたあいつが。俺より先に社会に出て働いて、きっと目に見えない苦労だって沢山経験しているはずなのにな。
R:それを、アレックスに直接言ってあげなきゃ…、ね?
L:…そうするよ。
R:それにさ、あなたももっと肩の力抜いて遊べばいいのよ!勉強ばっかじゃ疲れるでしょ。
L:遊ぶって言っても、そんな暇無い。
R:じゃあ少しでも時間ができたら、いつでも連絡して。あたしが話し相手になる。そうだ、弁護士目指してるってことは、なんか面白い事件とかいろいろ知ってんでしょ?ヤバそうなやつ教えてよ!
L:うーん……、君…グロいのはいける?死体農場の話で面白いのがあるんだけど。
R:ハァ!?何その死体農場って!めっちゃ面白そうなんだけど!!あ、ダメ、先にオチ言わないで。
L:ここで話してもいいけど、どこかカフェでも寄らないか?なんだか喉乾いてきた。
R:あたしもそう言おうと思ってたとこ!それに、ちょっと何か食べたいし。
L:食事しながら死体の話か。最高だね。
R:たまんない。う~、楽しみ!
アレックスの部屋
A:どうやらあの2人、上手くいったみたいだよ、フィリップ。今ロクサーヌからメッセージが来たんだけど、兄さんのことをとにかくベタ褒めしてる。すごいな、どうやってあの兄さんと会話が続いたんだ?
P:そりゃあ、なんたってロクサーヌだぜ?今まで何人もの男と付き合ってて経験値を積んでる。
A:そんなものかなあ。男女の仲って不思議だね。と言っても、恋愛ってわけじゃなさそうだけど。
P:それはそれで困るって。おまえの兄貴とオレの姉ちゃんだぞ?
A:そうだね…。
P:おい……ちょっと待て、これ見ろアレックス!
A:ん?
P:今、なんとなくロクサーヌのアカウント開いてみたんだけど、おまえの兄貴の写真があるぞ!!
A:ええッ!?
P:しかも異常事態発生だ。
A:なに、どういうこと?
P:おまえの兄貴だけなんだよ!ツーショットじゃなく!自分大好き女選手権アメリカ合衆国代表みたいなロクサーヌがだぞ、男の写真を単体でアップしたことなんて1度だって無かったんだ。しかもなんなんだよ…、このイイ感じの雰囲気のカフェと、隠し撮りしたみたいなショット…。ハッシュタグも、”#thebestoftheday”だけ。いつもベタベタあれこれと付けるくせに。これはまたかつてなくコメント欄が荒れるぞ…。
A:……つまり?
P:……ちょっと…いや、かなり本気かもしれねえ。
A:……どうしようフィリップ。…うっ、うわあああーー!!?
P:なんだよ急に!?
A:ここ、こ、これっ、たった今ロクサーヌが送ってきた、この画像見て…!!
P:なんだよこれッ!?あんのクソ姉貴!!
A:今日のお礼だって。ねえ、これ……女の子の格好してるけど、君だよね?何歳くらいの写真?3歳くらい?
P:知るか!!オレだって聞きてーよ!!
A:天使だ……。今すぐタイムスリップして、この天使に会いに行きたい。スマホの壁紙にしようかな…。
P:ハ!?正気かおまえ、今すぐ削除しろよ変態ッ!
A:もうクラウドにも保存されてますし、鍵付きのファイルにも入れましたので…無理です。
P:ざっけんな、早く消せこのバカ!!
A:この写真、一生の宝物にするね…ありがとうロクサーヌ…!
END
(200516)