フィリップとアレックスがアレックスの実家を再度訪れるお話。

登場人物

フィリップ

アレックス

E:エステバン

メリンダ

ロレンソ


シルバラード邸 リビング

A:…それで、僕らに話って何だい、兄さん。

P:………。

M:ほら、ロレンソ。言うんでしょ?

L:…この間はすまなかった、2人とも。ロクサーヌから聞いたかもしれないけど、ひどいことを言ってしまって…。心から無礼を詫びたい。

P:……。

A:兄さんがどんな気持ちで言ったのか知らないけど…、ただ彼女は、兄さんともう1度話した後、兄さんのことをとても褒めていたよ。

M:まあ……。

L:…そうか…。(本当の気持ちは、俺から直接弟たちに話した方がいいと彼女も勧めてくれていたもんな……。ありがとう、ロクサーヌ…)

P:姉ちゃん…ロクサーヌとは、どんな話を?

L:それは…――。


M:ロレンソ…まったく、どうしてもっと早く言わなかったの。父さんと一緒に働きたいなんて…、あの人が聞いたらきっと大喜びするわよ。

L:……本当にごめん。

A:兄さんの気持ちはよく分かったよ。僕こそ謝らないと…。兄さんのことを誤解してた。勉強のことしか頭にない冷血漢だって。

P:(おまえ、兄貴に対してそんなこと思ってたのかよ…)

L:俺こそ、本当にすまなかった。勝手な思い込みで判断したりして…。決しておまえを嫌ってたわけじゃないんだ。

M:はい、じゃあ仲直りのハグして!それでこの話は終わり!

A:えっ?

L:!?

M:これは提案じゃなく命令よ。母さんからの命令。…聞けないの?

A:……。

L:……分かったよ。

A:ごめんね、兄さん。

L:…俺こそごめん、アレックス。

M:よし、これでやっと昔の家族に戻れるわね。

P:良かったな…、アル。

A:うん。

L:ありがとう、フィリップ。ロクサーヌにも、後であらためてお礼を言うよ。

P:ああ、いいんだって、ロレンソ。姉ちゃんのことなら気にしなくて。

L:でも、彼女のおかげで救われたから。

M:そうよ、あんな良い娘さんめったにいないわ。結婚するなら、ああいう子にしなさい、ロレンソ。

A:!?

P:!!

L:な、なに言ってんだよ母さん!!

M:案外似合うと思うけど~。ねえ、アレックス?

A:そんなこと僕に聞かないでよ…。ほら、フィリップも固まっちゃったろ。

P:……。

M:ロクサーヌが娘になったら最高なのにねぇ…。それに、もうひとりのお姉ちゃんにも会いたいし。

L:と、とにかく、今はそんなこと考えてる余裕ないから。

M:そう?たまには息抜きしなきゃダメよ。

P:だな。ロクサーヌと遊ぶのは…あんまおススメできねーけど。

A:でも、この間はカフェで楽しそうだったじゃないか。ロクサーヌはSNSに兄さんの写真を投稿してたしね。しかも兄さん1人きりの。

L:そうなのか!?

M:なぁに?どういうこと?

A:あとで教えてあげるよ。母さん。

玄関の開く音

A:…父さん!

P:

L:父さん、もう仕事終わったの?

M:今日は早いのね、エステバン。

E:ああ、たまには早く帰ろうと思ってね。それにしても珍しいな、みんな揃ってるなんて。

P:あっ、あの…、はじめまして。フィリップ・ベルエアです。アレックスとは――

E:知ってるよ、フィリップ。息子と君とのことは妻からよく聞いている。私はエステバンだ。はじめまして。

P:…!お、オレも、お会いできて光栄です…シルバラードさん。

E:そう構えず、気楽にエステバンと呼んでくれればいい。

P:有難うございます…エステバン。

E:こちらこそ、いつも息子が世話になっているのに、礼が遅れてすまなかったね。これからも、息子をよろしく頼む。

P:こっ、こちらこそ、よろしくお願いします!

A:父さん…ありがとう。

L:…良かったな、アレックス。

M:もぉ~、エステバンったら話の分かる人ね!それでこそ私の可愛い太陽だわ!

E:や、やめなさいメリンダ。子どもの前で!

M:いいじゃない、ハグくらい。まだおかえりなさいのキスだってしてないんだから。3回はしなきゃ。

A:アハハッ!

P:(この母にしてこの息子あり、だな…)

L:アレックス、フィリップ、ダイニング行こうぜ。実は、母さんがごちそう用意してくれてるんだ。

P:

A:ほんと?

M:やだ、忘れてた。冷めないうちに食べて食べて!

ダイニング 食事中

M:それにしても…良かったわね、エステバン。ロレンソがあなたの事務所に入りたいだなんて。息子と一緒に働くのが夢だったんだから。

A:そうなの?

E:…おまえたちにもそれぞれの夢があるだろうから、言わなかったんだ。

L:そうだったのか…。

P:おめでとう、2人とも。

A:おめでとう!

L:ありがとう。空いてる時間も、父さんの事務所の手伝いができればと思ってる。

E:おまえはまだ無資格だからな。ファイル係からだぞ。それでもいいか?

L:もちろん。なんでも手伝わせてくれ。

M:ああ、こんなに嬉しい日ってないわ!これでなにもかも上手くいくじゃない。あなたがフィリップを連れて来てから、すべてが良い方向に向かったわね、アレックス。

A:でしょ?でも彼は僕だけの幸運のお守りだから、いくら家族でもみんなには貸せないけどね。

P:ば…っ、何言ってんだよ!

L:はは、ほんと仲良いよなおまえら。

E:仕事のほうはどうなんだ。順調なのか、アレックス?

A:幸運なことにね。周りの人にも恵まれてる。なにより僕にはフィリップがいるし。それだけでも十分だよ。

M:あらあら。

P:ご、ごちそうさま、メリンダ。とっても美味かった。

M:もういいの?

A:フィリップはいつもはこの倍だって食べるけど、今日は緊張してるんだよ、きっと。

P:アル…っ!

E:フィリップ、遠慮することはない。もっと食べなさい。

L:そうだぞ。

P:でもオレ、そろそろ行かないと…。カマロのことが心配だし。

L:カマロって?

P:オレらの飼ってる猫。超かわいいんだぜ。アルがSNSに写真貼りまくってるから今度見てくれよ。

L:分かった。チェックする。

A:僕も行くよ。

P:何言ってんだ。おまえはもう少しいろよ、アル。カマロの面倒はオレひとりで十分だから。

M:フィリップ…、あなたにもゆっくりしていってほしいのに残念だわ。でも、猫ちゃんも心配よね。

P:うん。ありがとう、メリンダ。アレックスには家族ともっと過ごしてほしいからさ。

A:…フィリップ…。

P:ほら、オレらのことは心配ないって。せっかく、久しぶりの家族団らんだろ?

L:そうしろよ、アレックス。

A:兄さん…。

E:たまにはゆっくりしていくといい。

A:…じゃあ、そうさせてもらおうかな。

E:ありがとう、フィリップ。

P:!いいえ。こちらこそ、今夜は有難うございました。お話できてとても嬉しかったです。

E:気をつけて帰るんだよ。

L:またな、フィリップ。…君の姉さんにもよろしく。

P:ロレンソ、ちょい耳貸して。

L:

P:ロクサーヌのことだけど……きっと、すげー会いたがってると思うぜ。弟としては複雑だけどさ…あんたのこと、本気で気に入ったみたいだし。もちろん、オレもな。

L:…!

M:カマロちゃんにもよろしくね、フィリップ。またいつでもいらっしゃい!

P:ありがとう、メリンダ。

A:じゃあ、またあとでね。気をつけて帰って、フィリップ。ところで兄さん、さっきフィリップと何話してたの?

L:それは…。

P:大したことじゃねえから気にすんな。それより、ゆっくりしてこいよ!

フィリップとアレックスの部屋 その日の夜

A:ただいま、フィリップー!!

P:おかえりー…ってうわっ!カマロごとつぶす気か!?

A:カマロの世話してくれてありがとう。元気そうで良かった。

P:オレらのいない間にだいぶ遊んだみたいで、なぜかシンクにボールが2個も入ってたけどな。それより、どうだった?

A:あんなにみんなと笑ったの何年ぶりだったかな…すごく楽しい時間だったよ。それもすべて、君のおかげだ…。本当にありがとう、フィリップ…。君が一緒にいてくれて、本当に幸せだ。もちろん、カマロもね。

P:(…アレックス…泣いてる…?)……オレも、おまえらといられて幸せだ。

A:うん…。それでね、父さんと兄さんに僕らの出会いから話したんだけど――

P:…ハァアッ!!?

A:2人とも見たことないくらいビックリした顔してて、母さんといっしょに笑っちゃったよ。

P:…おまえさぁ…誰彼かまわずオレらの出会いについて話すのやめろよな…。

A:僕の家族だし、知らない人じゃないからいいかと思って。

P:オレが恥ずかしいだろーが!ったく、次どんな顔して会えってんだよ!

END

(200707)