アレックスの隣人のお話。
登場人物
A:アレックス
S:シャマル
アレックスのアパート ホール
A:ジェイ、おはよう。すごい荷物だね。持つよ。
J:!?おっ、おはよう、アル!いいの、このくらい自分で持てるから。それに、今から出かけるところなんでしょ?悪いからいいよ!
(こんなときに限ってスッピンだし、いちばんボロくて安いサンダル履いてきちゃった~~あたしのバカ!ネイルもちょっと剥げてるし…最悪…やだもう消えたい…。お願い、気づかないで…!)
A:だめだよジェイ。ほら、右手の荷物貸して。せっかくこんなに美味しそうなトマトなのに、このままじゃ全部落ちて潰れちゃうぞ。
J:…ありがとう…。
(重い方の荷物持ってくれた…優しい…。それになんかめちゃくちゃ良い匂いする…どこの香水だろ。ああ~~~ハグされたい…!でもそんなことされたら心臓発作で死ぬ…)
A:気にしないで。お隣さんどうし、助け合わなきゃ。
J:うん…。
(やっぱりアレックス・シルバラードはあたしの王子様だよ…大好き…。ジェイド・ウィルキンス~~今日のあんたはツイてる!すっぴんだし靴も汚いけど、今日はぜったい最高のラッキーデーになる。…今日こそ誘わなきゃ。『よかったら、ヒマなときにコーヒーでもどう?』って…)
A:でも、それもあと少しなんだ。
J:えっ?
A:僕、引っ越すことになったんだよ。
J:ひっ、引っ越す!?そんな…っ、なんでッ!?
A:…恋人と一緒に暮らしたくて。ここは単身者用で狭いだろ?だから…。
J:こい…びと……。
A:だから、君とこうしておしゃべりできなくなるのはさびしいけど、近いうちにここを引き払わなきゃならないんだ。
J:……じゃあ、仕方ないね…。好きな人と一緒に暮らせるなんて最高じゃん。おめでとう、アル。
A:ありがとう!
J:…相手も、モデルなの?
A:…うん。まだ公にはしてないから、ここだけの秘密にしてね。
J:もちろん…!!
(ああぁ~~~初めてシェアするのがこんな秘密なんて…そんなのないよ…。どうせあたしなんかじゃ足元にも及ばないすっごい美人なんだろうな…。…バカみたい。こんな素敵な人に、恋人がいないわけないじゃん)
A:君は最近どう?
J:あたしは……、相変わらずかな…。レッスンとオーディションとバイトで毎日ぐるぐるしてる。
A:あまり無理しすぎちゃダメだよ。なにか困ったことがあったら言って。…と言っても、ここにいられるのはあと少しの間だけど、助けられることがあったら手を貸すからね。
J:うん…ありがとう。
(だめ、泣きそう…せめてアルがいなくなるまでガマンしなきゃ)…あっ、ここで大丈夫だから。本当にありがとね、アル。出かけるところだったのに、引き留めちゃってごめん。
A:いいんだよ。それじゃあ、また。
J:じゃあね。
ジェイドの部屋
J:うぅ~~…っ…。
(涙止まんない…。ほんの10分前までは、最高の1日になるって確信してたのに…、何もできないまま失恋しちゃった…。
ヴァレリー・ベルエアのような女優に憧れて、ワイオミングの田舎の牧場を飛び出てきたものの…あれから1年半。毎日毎日同じことの繰り返し。1歩も前に進めてない。それでも、彼のあの笑顔が唯一の癒しだったのに……。
初めて話しかけたとき、ニコニコしながら返してくれたのが、まるで昨日のことみたい。同じアパートで暮らしていただけでも奇跡だよね。こんなことなら、ダメもとでもっと早くデートに誘えば良かったな…。
……泣いたらちょっとスッキリしたかも。よしっ…!うじうじしてても仕方ない。少し走りに行こう。アルのことは…、それでおしまい。恋も仕事も、次はぜったいチャンスを掴んでやる!!)
路上
J:(そもそも、おとぎ話に出てくるような白馬の王子様なんて、そんな都合よくいるわけないじゃん。うちの牧場にも白い馬はたくさんいたけど、乗ってるのは樽みたいなおっさんばかりだったし。自分から見つけに行かなきゃダメだ)
=衝突=
S:ウワッ!!大丈夫!?どこもケガしてないか!?
J:…ごっ、ごめんなさい!ちゃんと前見てなくて…!(うわ…っ、すっごいイケメン…!)あたしは、だいじょうぶ。
S:じゃあ良かった…。でも君、目が赤いぞ。泣くほど痛かった?ごめんな…。
J:え?あの、これはそういうのじゃなくて…っ!ぜんぜんっ、平気だから…っ!
S:(よく見たら、この子すげー可愛いな。磨けばもっと光る感じで……)
J:あなたのほうこそ、ケガしてない?
S:俺?俺はなんともないよ。…それよりさ、君ってSNSやってる?
J:ええ…まあ。『Hearty(ハーティ)』と『Mood+Board(ムードボード)』、それから『Lovefolio(ラブフォリオ)』のアカウントは持ってる。
S:じゃあ、『Lovefolio』開いてもらっていい?
J:え?…ええ。
S:『shamal_LTF』ってアカウント検索してみて。LTFは大文字。
J:これって…あなたのアカウント?……あなたモデルなの!?
S:そう。もしどこかケガしてたりして、後から気づいたら、必ずこのアカウントにメッセージ入れてくれ。治療代出すよ。
J:そんな…っ!
S:もちろん…、ケガしてなくても、メッセージ入れてほしい。いつでも待ってる。
J:!!
S:じゃ、友達と待ち合わせしてるから、俺もう行くわ。
J:…うん。
(どうしよう……新しい王子様に出会っちゃったかも……。いやいやいやいや、待ってジェイド、冷静になって何だったの、あのイケメン!?……うーん、でも…でも…!顔は…超好みだった……。とりあえず、アカウントだけフォローしとこ…っと…)
街角のカフェ
A:おはよう、シャマル。…どうしたんだ、ニヤニヤして。
S:よう、アル。それがさ、ここに来る途中すげー可愛い子とぶつかってよ。彼女に連絡先教えたんだ。
A:君らしいな。
S:そのあと、また事件が起きた。
A:事件?どんな?
S:こないだ買ったロトの抽選結果見たら、大当たり!
A:おめでとう!いくら当たったんだ?
S:それがなんとぉぉ~~…500です♡
A:500ドル!?すごいじゃないか!
S:だろ?いつもは2ドルとかで、元も取れやしなかったのによー。今日は最高のラッキーデーだぜ。気分良いから、このあとメシおごってやる。
A:ははっ、ありがとう。彼女は幸運の女神だったのかもね。
S:彼女?
A:君とぶつかった女の子さ。名前は聞かなかったの?
S:そういや聞きそびれたわ、俺としたことが!おまえと会う予定なきゃ、今頃あのラッキーガールとコーヒーでも飲んでたかもな。
A:でも、連絡先は教えたんだろ?また会えるといいね。
S:ああ…。(あの子、真っ赤な目してたんだよな…。すげー勢いで走ってたし、男とケンカでもしたのか?あんな可愛い子を泣かせるバカ野郎がいるなんて、信じられねーけどな…)
END
(200908)