フィリップとアレックスが、自分たちの関係を公表するか迷うお話。
※このお話を漫画化する際は、先行の漫画の内容に合わせて改訂し、タイトルも『You raise me up』に変更する予定です。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
K:ケンジー
L:リリー
フィリップとアレックスの部屋
A:フィリップ、ちょっと話があるんだけどいい?
P:なんだよあらたまって。あ、今夜映画観るときに食うもんか?オレ何にしよっかな~。またこないだのナチョスでもいいや。
A:ううん、そうじゃなくて……、君さえ良ければ、僕らの写真をSNSに載せたいと思ってるんだ。
P:…!
A:僕らがこうして一緒に暮らしていることを知っているのは、家族とごく身近な友人だけだから、オンラインで公開すると、大げさに言えば全世界の人に知られることになってしまうわけだけど…。なにも後ろめたいことしてるわけじゃないしさ。
僕は、誰の目をはばかることも無く、堂々と君を愛したい。だから、君さえ許してくれれば、まだ僕らのことを伝えていない周りの人たちにも、僕の愛する人を知ってほしい。
P:……オレも、それは同じだ。
A:ありがとう。でも、君が嫌ならぜったいにしないよ。ただ、もし君が公表したいときがあれば、いつでも自由にしてくれて構わないからね。それだけは知っておいてほしい。
P:……分かった。ちょっと考えさせてくれ。
A:もちろん、ゆっくり考えて。それと、ナチョスで良ければ用意するよ。トッピングは母さんからもらったサルサとアボカドでいい?あれ、君とっても好きだろ?
P:あ、ああ…!じゃあ頼む。ありがとな。
A:ああー面白かった~!ラストの展開凄かったね!フィリップ、君のチョイスってハズレが無いよ。
P:あ、ああ…、だろ?(一緒に観たいとずっと思ってた映画だけど…内容ほとんど覚えてねーや…)
A:フィリップ…、君はまだ起きてる?
P:…ああ、もうちょいしたら寝るけど。
A:そっか。僕は明日ちょっと早いから、先にベッドに行ってるね。ナチョスの皿はシンクに入れて水に浸しておいて。明日起きたら洗うから。
P:いや、それくらいオレがやるよ。
A:そう?ありがとう。じゃあ、先にシャワー浴びるね。
P:おう。
P:(いつかはこういう時が来るとは覚悟してたけど……正直、オレらの関係を公表するのは…まだちょっと怖い。アルの言うとおり、別に何も悪いことしてるわけじゃねーし…、むしろ今のオレは、今までの人生で一番幸せだ。あいつのことは大好きだし、愛してる。
でも、オレらの関係を知ったあと、今まで好意的に接してくれてた人たちの目が、態度が、いきなり変わっちまったらと思うと…。それが怖くないと言ったら嘘だ。
しかも相手は、あのアレックス・シルバラード…。あいつを狙ってるやつらから、嫉妬されることだって十分考えられる。オレが嫌がらせされたりするのはかまわねえけど…、あいつへの嫌がらせだってあるかもしれない。もしもアレックスが傷つけられるようなことがあったら、オレはあいつほど強くいられる自信も無い…。クソッ…情けねえなあ…オレ。
たとえ誰がどうしようと、この先もアレックスと一緒なら平気だって信じてるし、それは分かってるんだけどな…。家族やダチは、オレらのことを完全に受け入れてくれてるし…)
=着信音=
P:(メッセージ…誰からだ?)
I:“よう、フィル!この前のハウスウォーミング、行けなくて悪かったな。撮影が立て続けに入っちまっててよ。それで、もしおまえらと予定合う日があれば、そっち行きてえんだけど、アレックスに聞いてみてくれね?まだ会ったことねえから会ってみてーし。じゃ、彼氏によろしく~”
P:(ザック………)
フィリップとアレックスの部屋 5日後
I:よーぅ!ルーミー!元気してたか?おおっ、けっこー良い部屋じゃねーの~~。
P:よう、ザック。今日はわざわざありがとな。アルは…今いねえんだけどさ…、撮影が押してるから、あと2時間くらいしたら来られるって。
I:はーいはいはい、ちょっと待て待て待て!せっかく2度もハウスウォーミングできるっつーのに、ぜんっぜん元気じゃねーな、フィル。もう声で分かんだよ。なんかあったんだろ?話してみ?
P:(ったく…こいつには隠し事できねーな…)…実は……――。
I:もうすぐアレックスも帰ってくる頃か?
P:あ?…ああ、そうかも。
I:よし、帰ってきたら、さっき俺に言ったことを全部あいつにぶちまけろ。
P:ハ!?
I:そうすりゃ全部解決すっから。
P:お、おまえがいるところでか!?
I:このアイザック様がついてりゃ怖くねーだろ?俺が帰ってからまたうじうじ考えるくらいなら、さっさと本音ぶつけて楽になっちまえ。
P:うぅっ…。
玄関の開く音
P:!
I:おっ、来たか。
A:フィリップ、アイザック!待たせてごめんね。
I:よう~、アレックスー!やっと会えたな。嬉しいぜ!
A:僕もだよ!はじめまして。君のことはフィリップからよく聞いてる。誰よりもフィリップのことを知ってるんだって?なんだかちょっと妬けるね。
I:おいおいおい、安心してくれよ。気のおけねー古いダチってだけだ。可愛い彼氏くんを奪う気はねーから。
A:ごめんごめん、冗談だよ。
I:そうだ、これ受け取ってくれ。引っ越しおめでとうのプレゼント。俺の偉大なばあちゃん、レジーナ・ブルーお手製のチェリーパイだ。こう言うと、ばあちゃんに「そんな汚い言葉使うんじゃないよ!」って叱られっけどさ、クッッソ美味いの。マジで。1口目からヤベーから。
A:うわぁ~~ありがとう!おばあちゃんにもよくお礼を言っておいてくれ。
I:おうよ。
A:?…フィリップ、さっきから黙ってるけど、どうしたの?どこか具合でも悪い?
I:……。ほら、フィル。
P:……あのな、アル…。
A:?
I:――ってことでよ、アレックス。こいつはおたくほどメンタル強くできてねえんだわ。だから、こいつの覚悟ができるまで、もうちょい待ってやってくれっか?
A:うん、当然だ。本当に…、本当にすまない、フィリップ。君がそんなふうに思ってたなんて…。僕は自分のことばかり考えて、ひとりで先走ってた。どうか許してくれ。
P:おい、おまえがそんな謝ることじゃないって…。
A:でも、君は僕の心配までしてくれていたのに、そんな君に負担をかけていたのは事実だ。…君に…っ…。
I:ちょっ、アレックス!ちょい待てって!なにもそんな深刻に受け止めんなよ。たしかに勇気のいることではあるけど、実際はSNSに1枚写真アップするっつーだけの話だろ?そんな世界の終わりみてーなテンションになる必要あるか?
A:…でも…。
I:それにな、おまえらはたしかに有名だ。そこそこな。けどよ、王族でも大統領でもねーんだぜ?「カレシと一緒に暮らしててラブラブですぅ~」なんて投稿、セレブだろーがそこらへんのガキだろーが、毎日どんだけSNSに投稿してっと思う?
もしおまえらがしたら、そりゃ最初は話題になるかもしれねえ。なんたってフィルは有名人の息子だ。ニュースサイトに載る可能性だってある。でもおまえらがいつも通りにしてりゃ、みんなさほど気にも留めなくなるって。それに、おまえらの家族だって、公表することはこれといって気にしてねーんだろ?
A:…うん。
P:まあな…。ママは特に…まったく気にしてない感じだった。
I:だったらなーんも心配いらねえじゃねーか。…とはいえ、アレックスのチンコが元気すぎたせいで、「なんでそんな男と付き合ってんのよー!」って逆上してくるやつがいねえとも言いきれねえけどよ。
A:…!?
P:おい、ザック…!
I:過去は変えられねえし、仕方ねえじゃん。でも今は誰に迷惑かけてるわけでもねーし、好きなやつと一緒にいるのはすげー幸せなことだろ?突っかかってくる哀れなアホがいてもほっときゃいいって。そういうやつはすぐ次のオモチャ見つけっから。
A:…そんなものかな。
I:そうだよ。アホは死ぬまでアホなの。
P:ははっ…、だよな。
I:お、やっと笑ったなルーミー。っと…、悪ィ。今はもう新しいイケメンなルームメイトくんに夢中で乗り換えちまったんだっけ~~。悲しいよなぁ~~俺泣いちゃいそう。
A:~~ッ!!ありがとう、アイザック!
I:うぉわッ!?
P:こいつハグ癖があんの。慣れてくれ。
A:君にはお礼をしてもしきれないよ。
I:あ、キスならいらねーぞ。そういえばよ、おまえらをくっつけたキューピッドは俺と言ってもいいくらいなんだぜ。だよな、元ルーミー?
P:…う…っ…。
A:え?どういうこと?
I:なんだよ~、話してねえの?アレックス…こいつさ、「男からデートに誘われてる~助けてザックぅ~」って俺に泣きついてきたんだぜ。
A:えぇっ!?
P:…そんなふうに言ってねえ。
I:で、よぉーく話を聞いてみたら、どうやらこいつも相手のことが好きになっちゃってるじゃん。もう耳まで真っ赤にして困ってやんの。あん時のこいつの顔、おまえに見せたかったぜ。
A:フィリップ、それ本当なの!?
P:ザック!!
I:で、後押ししてやったってわけ。「相手もぜってー喜ぶから、デート行って来いよ」ってな。
A:フィリップ……アイザック…。…ごめん、今ちょっと感動しすぎて泣きそうだ…。
I:泣くのはいいけど、今度なにか美味いメシおごってくれよ、アレックス。礼はそれでいいぜ♪
A:もちろんだよ…!
P:(クソッ、クソッ!バカザック!全部バレたじゃねーか…!!)
I:じゃ、本日のテーマ、ハウスウォーミング始めるぞ~~!仕切り直しィー!
P:おい、おまえホスト側じゃねーだろ!
A:あははっ!
撮影スタジオ裏 後日
L:ちょっと、ケンジー!!アレ見た!?
K:ハァ?何なのリリー、アレって。
L:ついさっき、アレックスがSNSの更新したんだってば!見てないの!?
K:アレックスって…、アレックス・シルバラード?
L:そう、あんたが狙ってたあのアレックス!
K:彼がどうかしたわけ…?まだ見てないけど。
L:ほら、これ見て!早く!
K:……なにこれ?この一緒に写ってるのって…、フィリップ・ベルエア?
L:そうだよ!うちらも一緒に撮影したことあるじゃん!あのフィリップ!この2人、デキてたって知ってた?
K:…ハ!?
L:ここ、アレックスがつけたコメント見てよ。『彼は僕の人生の大半を占めている』、だってさ。ハッシュタグは#loveだけ。理想のカップルだって拡散されまくってるし。ねえ、ケンジー……もしかして、あんたがフラれたときのアレックスの相手って、フィリップだったんじゃ…。
K:………。
L:どうすんの?これじゃ勝ち目無くない?だって、超幸せそうな顔してるもん、2人とも。特にフィリップ…。彼ってこんな顔するんだね…。
K:……別に、本気で狙ってたわけじゃないし。アレックスよりイケてる男なんていくらでもいるから。それに、どうせこいつらなんて来年には別れてるっしょ。
L:うわ、切り替え早っ!それでこそケンジー様だわ。
END
(200710)