『Departure』の後日譚。フィリップとアレックスがザックの家へ遊びに行くお話。

登場人物

フィリップ

アレックス

アイザック(ザック)

R:レジーナ


ブルー邸 玄関ホール

A:(スゴい…!ベルエア邸と同じくらいの豪邸だ…)

I:よーぅ、よく来たな!

P:よぉ、ザック。こいつがばあちゃんに直接チェリーパイのお礼言いたいっつーからさ。

A:今日は時間を作ってくれてありがとう、アイザック。

I:んーな気ィ使わなくていいっつの。うちのばあちゃんは、パイ作りと掃除が生きがいで呼吸みてぇなもんだから。

R:あたしが何だって?

I:うおわぁッ!?ビビらせんなよ、ばあちゃん!!自分の部屋にでもいんのかと思ってたわ。

R:ホールの掃除をしに来たんだよ。おまえが汚い靴でバタバタとあちこち動き回るせいで家中汚いったらありゃしない。

I:すみません…。

P:相変わらず元気そうだな、ばあちゃん。久しぶり。

R:おまえも元気にしてるみたいだね、フィリップ。ヴァレリーたちも元気かい?

P:ああ、みんな変わりないよ。

R:おや、そっちは…?…また悪ガキ仲間を連れ込んだんじゃないだろうね、アイザック。

I:人聞きの悪いこと言わないでくれよ!ばあちゃん、聞いたら驚くぜ。こいつこそが、フィルと一緒に引っ越した例の彼氏くんです♡

R:おやおや…。

P:ま、まぁ……そんな感じ…。

A:初めまして、ミセス・ブルー。アレハンドロ・シルバラードです。僕のことはアレックスと呼んでください。
先日は、僕らの引越し祝いに美味しいチェリーパイを焼いてくださり、本当に有難うございました。今まで食べたチェリーパイの中で一番の味でした。

I:ばあちゃんのチェリーパイはマジでクソウマだからな。

R:コラ!そういう汚い言葉を使うんじゃないっていつも言ってるだろ、アイザック!

I:ご、ごめん、ばあちゃん。

P:はははっ!

A:あの…、お会いしたばかりでぶしつけなお願いなんですが…、ミセス・ブルー、もし良ければ、僕にレシピを教えてくれませんか?

R:

A:フィリップもあのパイが大好物なので…作ってあげたいんです。僕にはあなたのように美味しく焼けないのは分かっていますけど…。

P:(アル…)

I:オイオイオイ、愛されてますなぁ〜フィリップくん!

R:茶化すんじゃないよ。…キッチンにおいで、アレックス。それと、あたしのことはレジーナでいいからね。

A:はいっ!

I:えぇ〜!?いつもオレやサムには「キッチンはあたしの聖域だよ!」ってめったに使わせてくれねぇのに!

A:サムって?

P:サマンサ。ザックの3つ下の妹。

R:アイザックとフィリップ、おまえたち2人はゲームでもしておいで。くれぐれも部屋を汚すんじゃないよ。

P:えぇえ!?

I:アレックス・シルバラード様は70代でもオトせんのかよ~ムカつくわぁ〜!

ブルー邸 キッチン

A:うわぁ…隅々までピカピカですね…。

R:掃除はあたしの日課だからね。

A:まさか、こんなに広い家をお一人で?

R:そうさ。せがれのアンソニーがハウスキーパーを何人か雇ったんだが、どいつもこいつも、まるでなっちゃいなくて。アイザックとサマンサの散らかし癖は何度言ったって直りゃしないし、ありゃ母親譲りかね。

A:アイザックのお母さんは、彼が子どもの頃に亡くなったと聞きました。

R:あの子が8つのとき、病気でね。元は、あたしの旦那が「ブラジルにとんでもない逸材がいる」って見つけてきた歌手の卵のディーヴァという娘でさ。それが、こっちに来てせがれに会うなり一目惚れして…。最初は煙たがってたせがれも、とうとう根負けしたってわけさね。

A:(うぅ…。アイザックのお母さんの気持ちが痛いほど分かる)それじゃあ、旦那さんはプロデューサーか何かを?

R:ああ。元々は歌手だけどね。ナイルズ・ブルーと言えば、ギターを片手にブルースで一時代を築いた男さ。

A:そんな凄い人だったんですね…。僕、ブルースはあまり聴いたことなくて…。

R:もう何十年も前の話だ。おまえさんのような若いもんは知らなくて当然だよ。

A:旦那さんとはこの町で知り合ったんですか?

R:いいや。故郷のミシシッピの田舎町のバーであたしが働いていたとき、ふらっと入ってきた埃だらけの痩せこけた男がいてね。しばらく隅のほうで飲んでいたと思ったら、抱えていたギターを鳴らして突然歌い出したんだよ。それもあたしをじっと見つめながら、恋の歌をね。

A:うわぁ…!それで恋に落ちたんですね。

R:両親は猛反対したけど…あたしはあの人の行くところなら、どこまででもついていこうと決めて、町を飛び出しちまったってわけ。まだ17の小娘には、そうするより他に何も思いつかなかったのさ。

A:それで、歌で大成功を収めて、この町に?

R:そう。それでやっとあたしの両親も認めてくれて。最初はテキサスで仲間とスタジオを作って、それが軌道に乗ったあと、こっちでレコード会社を立ち上げて…その頃せがれも授かってね。アンソニーもアイザックも音楽より演技に夢中で俳優の道を選んだけど、旦那も喜んで応援していたよ。

A:それじゃあ、旦那さんは…。

R:…もう13年になるかねぇ。その次の年、嫁も可愛い子どもを2人残して、あっという間に逝っちまったよ…。部屋を散らかすのとアンソニーの共演者の女たちにひどいやきもちを焼くところ以外は、本当に良い娘だった。あたしのことを、実の母親のように慕ってくれて…。

A:そうだったんですか…。それはお気の毒でしたね…。

R:その代わり、アイザックもサマンサもあたしがビシビシ鍛えてやったってわけさ。

A:アイザックがあんなに素晴らしい理由が、あなたと話していてよく分かりましたよ、レジーナ。

R:おまえさんもね、アレックス。あの甘えん坊が選ぶわけだわ。それで、おまえさんもフィリップと同じでモデルをやってるのかい?

A:はい。フィリップとは仕事で知り合って、僕が一目惚れを――。

アイザックの部屋

P:…なんかゾクッとしたな。

I:今日そんなに寒くねぇぞ?風邪でも引くんじゃね?

END

(221201)