アレックスに対する気持ちに戸惑うフィリップのお話。(漫画版『Friend zone』は一部台詞の改変あり)

登場人物

P:フィリップ

A:アレックス

D:撮影ディレクター

H:ヘアメイクアーティスト

I:アイザック(ザック)


楽屋

P:(また来てる…。あいつからのメッセージだ。初めて仕事で一緒になって番号交換してからずっとこれだ。よく飽きもせずにこれだけ送ってくるよな…)

A:“やあ、フィリップ。来週の日曜、予定ある?よかったら僕と食事に行かない?とても美味しいイタリアンレストランを見つけたから、君と一緒に行きたいんだ。
それから、前教えた店に入った新作のシャツが、君の綺麗な髪と瞳にとても合う色だったんだよ。画像だと色合いが分かりづらいから、一緒に実物を見てほしくて。あのシャツを着てる君、きっと素敵だと思う”

P:(毎回この調子…。これってもしかして、いや、もしかしなくても、『デートに誘ってる』ってことだよな…たぶん。男友達に言うセリフじゃねーだろ、こんなの。

そもそも、撮影中からどこかおかしかったし…――。

回想

P:おい、さっきから手擦ってるけど寒ィのか?

A:いいや。このあと絡みで撮るだろ?君に触れるとき、なるべく冷たい思いをさせたくないから。

P:…!

A:君こそ、体の調子はどう?何か足りないものがあったらいつでも言ってね。


A:フィリップ…寒くない?もっと僕に寄りかかっていいよ。風邪がひどくなったら大変だから。

P:みっ、耳元でしゃべんな!それと、手離せ。さっきからベタベタ気色悪ィんだよ!

A:ごめん…。こんなに綺麗な手を見たことがないから、ずっと触れていたくて…。

P:…ハァ!?

D:次のショットいくよー。

A:ほら、次はキス寸前のアングルだから、目を反らさないで、フィリップ。世界一愛しい人だと思って、僕を見つめてくれ。

P:…!?できっかよ、んなこと!ふつうに目を見るだけで十分だろーが。

A:でも、それじゃあ雰囲気が伝わらないよ。君だって、なるべく早く終わらせたいだろ?僕に体を預けて。僕らはカップルなんだから、今だけは……。


H:フィリップ、大丈夫?顔真っ赤よ?具合悪いならディレクターに伝えてこようか?

P:いや、だ、大丈夫!ありがと。

(あん時、マジでキスされんのかと思った……。でもあいつ、スタッフからモテまくってたし、どっちもいけるにしても、なんでオレなんだ?またテキトーに断ったら、へこんじまうかな……。

つーかこんなの初めてだし、どうしたらいいのかもう分かんねーよ…。でも誰に相談したら…。家族にはぜったいムリだろ?

……そうだ、あいつなら…!)

AC市内のある公園 数日後

I:よーぅ、ルーミー!ひさしぶりっ!元気してたか?

P:まあね…ひさしぶり、ザック。もうルームメイトじゃないんだから、その呼び方やめろよ。

I:なんだよ~俺とおまえの仲だろー?おまえのママよりおまえのことに詳しい自信あるぜ。お互い忙しくなっちまったど、たまにはこうして顔合わせんのも昔みたいでいいな。

P:ああ。

I:ところでよ、ここに昼来るフードトラックで、なんとかって名前のめちゃウマなメキシカンホットサンド出してくれるすっげーセクシーな子がいてさ。この前、名前聞いたんだけど、彼女なんて答えたと思う?

『ジア』。もう響きがセクシーじゃね?なんなの『ジア』って。どっちかっつーと、サンドイッチよりその子のほうがホットで食べちゃいたいぜ~……ってもしもぉーし!フィル、聞いてっかー?

P:聞いてるよ。可愛い子がなんとかってサンド売ってんだろ?

I:ジアな。つかさっきからテンション低くね?悩みがあんなら、このアイザック様に何でも話せって。それで呼んだんだろ?

P:……最近、何しててもずっと頭から離れないことがあってダメで…。ザック…、オレおかしくなっちまったのかも。

I:おいおい、まさかドラッグやったりしてねーだろうな?前話したろ?俺のいとこがジャンキーで、過剰摂取して死にかけた話。

P:やるわけないだろ、そんなもん。そうじゃなくて、1人の相手から……何度もデートに誘われてるんだ。

I:なんだよ~、んなガキくせーことで悩んでんのか?心配して損したぜ。んで、おっぱいでかい?

P:笑いごとじゃねーよ!デートって言っても、相手は男でさ。

I:ハ??

P:……仕事で知り合ったやつで、オレより背も高くてごつい。知りたいなら言うけど、胸もおまえくらいでかいよ。

I:えっ、まさかのソッチいっちゃう感じ!?

P:オレのほうが驚いてるっつーの…男からデートに誘われるなんて。

I:行きたくねーんなら断れよ。俺が言ってやろうか?

P:いや、べつにそういうわけじゃ…っ

I:…ちょっとまて、なんだよフィル、もしかしておまえもそいつのこと好きだったりすんのか?

P:……んなわけねーだろ。

I:(……あーあ、耳まで真っ赤だわ…)

P:男なんか好きになるかよ…。

I:(いや、もうなってるっしょ)…フィル、女の子は好きになったことあんだろ?恋愛相談受けたこと何度かあるからな、無いとは言わせねーぞ。ぜんぶ友達止まりに終わったけど。

P:うるさい。

I:そん時どんな感じだった?その子のこと考えて頭がいっぱいだったんじゃね?

P:……それは…。

I:今も同じだろ?それが恋じゃなかったら、もはやなんだっつーのよ。別にそいつがウザくて憎くて頭がいっぱいってわけじゃねえんだよな?

P:いや、でも恋愛とかそういうのじゃ…っ、

I:そいつ、なんて名前?

P:…アレックス・シルバラード。

I:アレックス…シルバラード……?…ああぁーーーッ!!!

P:なんだよ!?

I:去年ドラマの撮影で一緒になった若手女優と付き合ってた男が、そんな名前だったんだよ!彼女がのろけまくってたから覚えてる。

P:…それたぶん同じやつかも。あいつ、めちゃくちゃモテるし、女優と付き合ってたっておかしくない。

I:そんな男がよくおまえのこと好きになったな。あ、悪い意味じゃないぜ。

P:わかってる。だから、オレも初めてデートに誘われた時、「マジでからかってんだろーなこいつ」ってムカついてたんだ。「誘いに乗るかダチと賭けてんのかな」とかさ。

I:まーそりゃ思うわな。しかもおまえは、ヴァレリー・ベルエアの息子って立場でもある。ゴシップサイトにでも、あることないこと書かれたらかなわねーわ。

P:ああ。だから寄ってくるやつは全員敵だと思うくらいでいる。

I:なんかそれ野生の小動物みたいでウケるな。ま、たまには肩の力抜けよ。でも、何度も誘ってくるってことはガチなんじゃねーの?

P:さあな…。なんかあいつ、初めて会った時からずっと押しが強くてさ。最初はおかしなやつだと思ってたんだけど…。

I:だけど?

P:………。

I:ちょっとスマホ貸せ。

P:

I:直接言ってやんよ、そのアレックスくんに。「俺の大事なダチをおちょくってんなら、その元気すぎるチンコもぎとって2度と女遊びできねえよう太平洋に捨ててハワイまで流してやっから、ツラ貸してチンコ出せ」ってな。

P:ばっ、何言ってんだよザック!!

I:だってそーだろー?

P:いや、あ、あいつは、たしかに女遊び激しいかもだけど、そんな悪いやつには…思えないっていうか…。

I:じゃ、乗ってやれよ、デートのお誘い。きっとすげー喜ぶぜ。

P:そうかな…。

I:そうだよ!俺は男とデートしたことねえからわかんねえけど、どうせ俺らみたくしゃべってメシでも食ってハイ解散だろ?んな構えることねーって、な?ヤバそーだったら即911しろ。

P:だよな…、考えすぎなだけかも。

I:あ、そうだ、待ち合わせはぜったいに遅れて行けよ。

P:なんで?

I:相手が遅刻して来るとき、どういう態度取る野郎なのか見るために決まってんだろ。それに早々とお前だけついてたら、期待して待ってたっぽく思われるし、影から写真撮られて女どもに回されるかもしんねーだろーが。どんな良いヤツに見えても、念には念を、だ。

P:おまえ、たまにすげー女子みたいなこと言うよな…。

I:だからちょい遅れて行って、相手の待ってる姿を少し観察してから声かけんだぞ。いいな?

P:お、おう。

I:なんにせよ健闘を祈ってるぜ。楽しめ!

P:わかった。…ありがとな、ザック。

アイザックの部屋 その日の夜

I:(あいつらどうなったかな…。ガキの頃、妹が1コ上の先輩と初めてデートするっつって出かけてった時、こっそりついてってモールの物影からずっと見張ってた親父の気持ち、今ならよぉーく分かるぜ。

これでもしあいつらがうまくいったら、特にアレックスはこの俺に感謝してほしいね。会ったらメシでもおごらせよーっと♪)

END

(200515)