フィリップとアレックスがビーチ沿いの桟橋上にある遊園地で4回目のデートをするお話。
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
遊園地 桟橋
P:はー…、ジェットコースターとメリーゴーランドなんて乗ったの何年ぶりだろ?ガキの頃以来だ。
A:ジェットコースターに乗ってた時の君、ずっと笑ってたね。
P:だってさ、たいしたデカさのコースターじゃねーのに、なんかテンション上がって超楽しかったから。あれはヤバかった。
A:結構スピードもあったしね。
P:そう。スケールちっちゃい分、速く感じるのかな。
A:かもね。君が楽しかったなら、僕も嬉しいよ。
P:あとメリーゴーランド…、おまえがあれ乗ろうって言い出したときは、「こんなのガキの乗るもんじゃん。ぜってームリ」って思ってたけど、けっこーいろんな世代の人が乗ってんの見てハードル下がったわ。
A:僕らの前に乗ってたおばあさんも楽しそうだったよね。孫の女の子といっしょで。
P:そうそう!あの2人、すげーかわいかったよな~。
A:ねえフィリップ、のど乾かない?
P:オレもそう言おうと思ってたとこ。さっき笑いまくったからかな。
A:あそこの店で買おうよ。
P:おう。
P:ストロベリーとチョコのサンデーかー。おまえ、ほんとに甘いの好きなんだな。
A:うん。…変かな?
P:ちっとも。甘いもん好きなやつなんていくらでもいるじゃん。オレだって好きだし。だからアイスクリームソーダにしたんだぜ。
A:そっか…じゃあ良かった。
P:…それ美味い?
A:食べてみる?
P:いいのか?じゃあちょっとくれ。
A:どうぞ。あ、…まって、僕の使ったスプーンだった。新しいのもらってくるよ。
P:いいって、そんなの。オレ別にそこまで潔癖じゃねーし。おまえが気にしねえなら、同じのでいいよ。
A:!?ぼ、僕はぜんっぜん!気にしませんからっ!
P:なんで急に敬語になってんだよ。
A:(うわぁーー!!どうしよう、フィリップが僕のスプーンで…!!)
P:…おっ、美味いなこれ。イチゴと生クリーム、やっぱ合うよなぁ~。チョコももらっていい?
A:…どうぞ!好きなだけ食べてください!
P:だからなんで敬語…。あっ、チョコも思ったより濃厚で美味い。なあ、オレのもやるよ。このアイスクリームソーダ美味いぞ。チェリーもおまえにやる。
A:えっ!?いいの!?
P:ビビるからいきなりデカい声出すな…!
A:…じゃあ、いただきます…。
P:おう。
A:(…美味しい…!それに、フィリップが使ったストロー使っちゃった…!)
P:なんだよ、もしかして歯に沁みた?
A:ちが、あの、すごく美味しくて…。
P:そんな震えるほど美味かったのかよ。
A:うん…。ごめんね、ストロー使っちゃって…。
P:だからいいって。そんなの気にしねーから。
A:ありがとう。
P:それより、桟橋の先端まで行こうぜ。もうすぐ太陽が沈むぞ。
A:ほんとだ!(もうそんな時間だったのか…。彼と一緒だと時間が経つのがあっという間だな…)
P:夕陽が水平線に沈むのを見るなんて…、オレ、生まれて初めてかも。
A:言われてみれば、僕もあまり経験無いなあ。ビーチの近くに住んでなかったし。
P:そういえば、おまえんちってどこだっけ?
A:サウス。単身者用のアパートを借りてるんだ。実家はセントラルの外れのほうだけど。
P:ああ~…じゃあちょっと遠いな。オレのダチもサウスだわ。
A:そうなの?
P:ああ。オレらと同じでモデルのカイとトレイシー。同棲してんの。
A:カイ・オブライエンとトレイシー・デ・パルマ?
P:なんだよ。おまえ、あいつらのこと知ってんの?
A:名前だけね。同棲してるのも聞いたことがあるくらいで、会ったことはないよ。
P:そっかー。
A:あの2人もサウスなら、もしかしたら近くですれ違ったことがあるかもなぁ…。フィリップ、君はヒルズだよね?
P:そう。今度遊びに来いよ。
A:…えっ?いいの?
P:ああ。
A:ありがとう…!!
P:お、もう半分以上沈んでる。溶けたアイスみてえ。
A:ほんとだね。ちょうど僕の持ってるサンデーに似てる。
P:オレンジ味だったら完ぺきだったな。
A:そうだね。たしかメニューにあったから、今度来たときに食べてみようかな。
P:また来ようぜ。
A:…!うん…また来ようね。
P:うわー、もうだいぶ沈んできた…。綺麗だなー…。
A:……。
P:…?おい、なんでオレ見てんだよ。夕陽見ろって。ちょうどいいとこだぞ。
A:あ、…うん。
P:(にしても、周り…カップルだらけじゃん…。男の2人組もいるけど、明らかにカップルっぽいし…)
A:(…当然だけどカップルだらけだ…。他の人たちから見たら、僕らもカップルに見えるのかな…。いや、ただの友達か…)
P:(今までなら、こいつは女の子とこんなところに来て、いちゃいちゃしたりしてたのかな…。あれだけモテてんだし、当然だよな…)
A:(今まで何度かガールフレンドとここに遊びに来たことはあったし…、ここでキスされたこともあった。でも…、フィリップとは手すら繋いでいないのに、こんなにも楽しい。こんなデートは経験したことが無い。…これをデートと呼べるかどうかは別として…)
P:ああっ!もうちょいで全部沈むぞ。ほら、見ろよアレックス。
A:わぁー…!もうほとんど消えかかってるね。
P:…あーー…沈んじゃったな…。意外とすぐだった。
A:綺麗だったね…。
P:ちょっと感動したな。毎日起きてることなのに、こんなにじっくり見たことねえもん。
A:僕もだよ。
P:…このあとどうする?
A:僕は特に予定もないし、君に合わせるよ。
P:あのさ…、じゃあさ…、またコースターとメリーゴーランド乗らね?
A:…!いいよ、乗ろう、乗ろう!(なんて可愛いんだ…フィリップ…。観覧車も一緒に乗りたいけど、そこまでは無理か…)
P:あと、メシもここで済ませちまおうと思ってんだけど、付き合ってくれるか?
A:もちろん…っ!喜んで!
P:だったら、あっちにメキシコ料理のレストランあったろ?あそこにしようぜ。オレ詳しくないから、おまえのおススメのやつ食べたい。
A:うん!わかった、まかせてくれ。(今日は、暗くなってからもしばらく一緒にいられる。なんて幸せなんだ…。このまま1日中、いや、毎日ずっと彼のそばにいられればいいのにな…)
遊園地 レストラン内
P:あ~~…もうダメ、一口も食えねえ。
A:満足してくれたなら良かったよ。君って見た目よりもいっぱい食べるんだね。
P:それよく言われる。ベレニスもそうなんだけど、食べても太りづらい体質みたいでさ。
A:なんでも美味しそうに食べてくれるから、食事する君を見ていると楽しい。
P:はは、おまえが作ったみてーな言い方だな。普段は自炊してんの?
A:うん。基本的には、ほとんど。
P:すごっ…えらいなー。オレなんかほぼ外食、オートミール、シリアル、ケータリング…でジャンクフードのループだぞ。
A:それで太らないなんて、逆に羨ましいよ。僕ならすぐ太ると思う。
P:ほんとはもっとちゃんとした食生活にしたほうがいいんだろうけどさ。オレそういうのだらしねーから。
A:…僕で良ければ、たまに作ろうか?
P:マジで!?おまえ料理上手そうだよな…。なんつーか、そんなイメージ?おまえんちのママが料理教室やってるからかな。
A:そんな大したものはできないけど、朝食や簡単なランチくらいなら用意できるよ。
P:でも、おまえだって色々忙しいだろうからいいよ。気持ちはありがてえけどさ。
A:そっか…。
P:じゃあ…今度おまえんち行っていい?そん時なにか作ってくれ。
A:エッ!??うん…もちろん!!君のためなら何だって作るよ!
P:魚さばいてスシ握るとか?
A:それは…、ちょっと…できる自信無い、かも。
P:ハハッ、冗談だって。おまえがいつも食ってるもんでいいよ。
A:あはは、よかった!それなら、すぐ作れる。(フィリップがいつか僕の部屋に…!?帰ったら掃除しなきゃ!!)
遊園地 出口付近
A:(もう7時半か…)そろそろ遊園地も閉まるね。
P:…ああ。あのさ、ちょっとここで待っててくれるか。5分くらいで済むから。
A:?…うん、いいよ。(なんだろ…トイレかな?)
P:アレックス、これ…。
A:ブレスレット?
P:今日…すげー楽しかったから…、その礼に。
A:!?
P:昼間に寄った店で売ってるの見たんだ。おまえに…似合いそうだったから。好みじゃねーかもしれねえけど…。
A:ありがとう…。僕、こういうブレスレットが好きなんだ。とっても気に入ったよ。
P:ほんとか?
A:うん!(だめだ、涙が…)
P:実はさ…、オレも同じの買ったんだ。今日の記念になるだろ?
A:~~ッ!!一生大事にするよ、フィリップ!!
P:うわッ!?おい、苦しいって!離れろバカ!
A:ごめん…っ、本当に本当に嬉しくて…。ありがとう、フィリップ。
P:オレこそ、今日はありがとな。
A:家まで送ろうか?
P:いや、大丈夫。こっからだとそんなに離れてねーし。LOAD(配車サービス)で車拾って帰るわ。
A:また連絡してもいい…?
P:ああ、もちろん。また遊ぼうぜ。
A:ありがとう。おやすみ…、フィリップ。
P:おやすみ。じゃあ、またな。
ベルエア邸 フィリップの部屋
P:(ヤベーな…。ヤベーって…。今日のオレ、どうかしてた。なんで2回もコースターとメリーゴーランド乗ってんだよ…5歳のガキかっつーの。なんかまだ全身がふわふわしてて変な感じする…。
…にしても、ブレスレット渡された時のアレックス…嬉しそうだったな…。泣きそうな顔で、思いっきりハグまでしてきたし。あいつの言葉や、オレに対する態度を見てると……、オレのことが好き……ってことだよな…たぶん。メッセージだけでやり取りしてた時から、オレのことを好意的に見てるのは分かってたけど、こうして何度か会ってよく分かった。
いや…、待てよ。あいつがただ感動しやすいタイプで、オレのことを純粋に友達としてめちゃくちゃ大事に思ってくれてるだけって可能性も捨てきれねえ…のか…?もしもそうだとしたら…オレ、どうしたらいいんだ。
だって、…オレはもう…あいつのことを好きになってる。ここまできて、「君はただの友達だよ」なんて言われたらさ……きつすぎんだろ…。
――結局、ザックの言ったとおりだった…。とっくに好きになってたんだ。きっと、あの撮影のときから…。いつもあいつには何でも見透かされるな…くそっ…)
アレックスのアパート
A:(だめだ…。明日は仕事だし、シャワーを浴びなきゃならないのに、このブレスレットを外したくない。フィリップからプレゼントをもらうなんて全く予期してなかったから、心臓が止まるかと思った。しかもおそろいって…!婚約指輪をもらったときの気持ちってこんな感じなのかな…。いや、この100倍くらいは嬉しいか。
あの時はどうにかハグだけで済んだけど、もう少しでキスしてしまうところだった。もしもそんなことをしたら、せっかくの彼の好意を無にしてしまいかねない。誰だって、好きでもない相手からキスなんてされたくないもんな…。
……好きでもない相手…か。彼は、僕のことをどう思ってるんだろう。衝動的にしてしまったハグはいちおう拒否されなかったし…今まで4回も付き合ってくれて、今日はプレゼントまでしてくれた。決して嫌われてはいない、と信じたい…。なんといっても、同じスプーンだって使ってくれたし…僕も彼のストローを使わせてもらったし…!
とはいえ、このブレスレットは、単に今日のお礼として…だけなんだろうな。彼にとっては、それ以上でもそれ以下でもないんだろう。僕には最高の贈り物で、宝物であっても。せめて、今日は本当に楽しかったと思っていてくれたらいいな。彼が嫌がるかと思ってやめたけど、写真も撮ればよかった…。ツーショットが無理なら、せめて彼の写真だけでも…。
ああ……このブレスレット……、外したくないけど濡らすわけにもいかないし、今日は着けたまま寝よう)
END
(200716)