※このお話は、会話集『Love advice』と本文の一部を統合し、新たに『Call me anytime』として漫画化しました。
シャマルの部屋で、フィリップとの出会いを振り返るアレックスのお話。(※アレックスの回想部分は会話集『Honey』の台詞であり、漫画版『Honey』とは一部異なります)
登場人物
P:フィリップ
A:アレックス
S:シャマル
回想 撮影現場
A:はじめまして。僕はアレハンドロ・シルバラード。アレックスって呼んでくれ。
P:…よろしく。
A:フィリップって呼んでもいい?
P:好きにすれば。
A:それから、これ。
P:あ?
A:僕の番号。
P:…ハ?
A:よかったら受け取って。
P:なんなんだよ……、あんた…もしかしてゲイ?
A:いや、そういうつもりじゃない。ただ、君ともっと仲良くなりたいと思ってさ。
P:オレ、あんたとは合わないと思うぜ。つーか、何が目的なわけ?
A:目的は、君と友達になることだけだよ。僕らはぜったい良い友達になれる。
P:っは…なにそれキモ…。いらねーっつってんの。つるむ相手なら困ってねーから。
シャマルの部屋
S:おい、マジでそんなこと言われたのか!?おまえ、ほんっとメンタル強ぇな。この時点でこれ以上下がりようがねーくらい、俺の中のフィリップの印象最悪だぞ。
A:僕もまだ、そのときは彼を好きになった自分に戸惑ってもいたから、いきなりダイレクトに「好きだ」と伝えるのはできずにいたんだ。でも、競争率高いのは分かってたし、ぐずぐずもしてられなかったから、そこからは一気に攻めたよ。
S:あいつには、前から売名目的の女どもが群がってたからなー。で、どんな奇跡が起こって今あいつと付き合ってんの?
A:その撮影は(――僕の人生で最もツイてた仕事だ)、ゲイカップルって設定で撮ってたから絡みもあったんだ。たとえば、唇が触れるか触れないかの距離で撮るような。
S:ああ、あれすげーよかったよな。雑誌で見たわ。
A:ありがとう。それで、いざ撮影に臨んだんだけど…なんというか、彼がぎこちなかったんだよね。
S:トイレ行きたかったんじゃね?
A:そうじゃなくて、人と触れ合うことにあまり慣れていない感じで。
S:あのツラで、こんな仕事してんのにかァ~?
A:うん。なんだか、初めて女の子をハグした男の子みたいでさ。
S:信じらんねー…。
A:僕も初めはそうだった。きっと僕以上に遊んでるんだろうなって勝手に思い込んでたから。ただ、ディレクターたちも違和感あったみたいで、いったん休憩に入ったんだ。なにせブランド側の意向でメインモデルは彼。替えはきかない。その点、僕は引き立て役だったから、似たような代わりならいくらでもいた。
S:なるほど。
A:でもこのチャンスを逃したくなかったから、休憩中に彼のトレーラーハウスに行って、思い切って聞いてみたんだよ。
S:(なんかワクワクしてきてる俺…)
A:『フィリップ、君ってもしかして恋愛経験少ないの?』って。
S:いきなりかよ!?俺その場にいなかったけど、あいつの心のシャッターが完全に閉まる音聞こえたわ。
A:そうしたら彼、一瞬無言で固まったあと、耳まで真っ赤にして「んなわけねーだろ!!」って叫んだんだ。それで確信した。
S:うん、俺も確信した。
回想 フィリップのトレーラー内
P:さっきからいきなり何なんだよおまえ!?バカにしてんのか?さっさと出てけ。
A:気を悪くしたならごめん。ただ…撮影中、絡みになると君がやけにぎこちなかったから、もしかしてそうなのかなって。
P:ち、ちげーよ。相手が男だからに決まってんだろ。
A:そうか。それもそうだよね。…じゃあ、練習しない?
P:練習?
A:僕ら今カップルって設定で撮影してるだろ?だから、実際に相手のことを恋人だと思って接するようにするんだ。
P:おまえを”カレシ”だと思って接しろって?やだね。100パー無理。
A:でもスタッフたちは心配してたよ。君の表情が硬いから。
P:…そうなのか?
A:ああ。だから、まずこの設定に慣れて、さくさく撮影終わらせちゃおうよ。
P:………。
A:はい、じゃあまずはハグから。
P:今ここでやんのか!?
A:もちろん。誰も見てないしいいだろ?いつもガールフレンドたちにするようにぎゅっとしてみて。はい、どうぞ。
P:…クソッ、分かったよ。やりゃーいいんだろ?
シャマルの部屋
S:おまえってほんと……。
A:ハグされたとき、トレーラーの外まで響くような大声で「YES!!!!!」って叫ばなかった僕を誉めてほしいね。
S:結局、撮影は順調にいったのか?
A:ああ。その後は徐々にフィリップの表情も柔らかくなっていった。
S:ほおー。スタッフも助かったな。
A:フォトグラファーからは、『まるで本物のカップルみたいだ』って言われたよ。
S:実際そうなったしな。
A:撮影が終わるまで、ずっと彼を本当の恋人だと思って接したからね。その努力が実ったんだ。そしてとうとう最終日…。
S:キャー!2人の恋はどうなっちゃうの!?(裏声)
回想 撮影現場
A:おつかれさま、フィリップ。
P:おう、おつかれー。
A:今日で撮影も終わりだね。…さみしいけど、最高に楽しかったよ。それもぜんぶ君のおかげだ。
P:………。
A:初日に断られちゃったけどさ、僕の…――
P:これ。
A:えっ?
P:オ、オレの番号。欲しかったんだろ?
A:……いいの?
P:いらないならいい。
A:ありがとう!フィリップ!!
P:離せよっ!苦しい!
A:あとでメッセージ送るね。
P:先に言っとくけど、オレは返信遅いからな。
A:かまわない。君とまた話せるだけで嬉しいから。
P:……じゃあまたな、アレックス。
A:さよなら、フィリップ。また撮影でいっしょになれるといいね。
シャマルの部屋
S:大勝利じゃねーか。
A:頭の中でファンファーレが鳴り響いてたよ。
S:俺のガールフレンド候補ちゃんたちを、難なく3人もかっさらった野郎が、男の番号聞き出すのにこれほど苦労するとはね。
A:どうしても彼が欲しかったんだ。なんだってするさ。
S:やっぱすげーわおまえ。俺もさっさと次の彼女見つけよ…。
END
(200515)